2013-02-25

『シュガーマン 奇跡に愛された男』クロスレビュー:奇跡がおこるには生き様も大事 このエントリーを含むはてなブックマーク 

webDICEさんのご好意で試写を鑑賞しました。

冒頭、太陽の光を浴びてキラキラと輝くキレイな南アフリカの岸壁をシュガー(南アフリカのレコードショップ店員)を乗せた車が走る。

ここで邦題にもなっているタイトル曲「シュガーマン」が流れる。
 


 
ーーー歌詞はこうだ

シュガーマン 急いでくれないか/こんな景色にはもううんざりなんだ/
青いコインをやるから/俺にまた極彩色の夢を見せてくれ…

 いかにもブルージーで哀しげなドラッグのプッシャーを歌った曲…一聴しただけでもグっとくる。
 何故この南アフリカで有名な「シュガーマン」を歌う歌手、「ロドリゲス」は消息不明なのか?この謎がシュガー(南アフリカのレコードショップ店員)から提起される…それがこの映画の始まりだ。

 そうなのだ、1960年代の南アフリカはアパルトヘイトによる差別や貧困でエスタブリッシュメントに対して不満が溜まった国民(白人含む)に、この「ロドリゲス」が歌う政治的で刺激的な歌は独裁政権下で当然の如く発売禁止となった為に逆説的に人気が広まり、思わぬ方向から国民の心に刺さってしまい、革命を推し進めた為に50万枚以上という驚異的な大ヒットを叩きだし英雄の如く扱われたのだ。揚げ句の果てに「ステージ上で銃で頭を撃ち死亡した」または「獄中でヤク中のまま死亡した」という死亡説が流れ伝説化してしまった。しかし、このシンガー・ソングライターはモータウン勃興期のデトロイトでデビューするも、本国アメリカでは、あまりにもアルバムが売れなかったが故に、日の目を見ることなく消え去った星の数程いるアーティストの一人だったのだ。

 映画はこの事実を南アフリカ目線で不思議だ、と伝えるのだがインタビューに答えるアメリカの当時の関係者が皆、胡散臭い…こうして彼にスポットライトが当たらなければ「ロドリゲス」を絶対に思い出さなそうな人間ばかりだ。「ロドリゲスはいいアーティストだ」といいながらも後のモータウン・レコードの社長、クラーレンス・エイボンが創業したインディーズ・レーベル、サセックス・レコードから出たアルバムはエイボンや彼の家族含め「6枚しか売れなかった、本当に南アフリカでそんなに売れたのか?じゃあ、金をくれよ、印税?知るか!」と語気を荒立てインタビューをシャットアウトする…怪しい。おそらく本当にほとんど売れなかったのだろうが、おそらくその時点でとっぱらったんだろう…。このパっとしないくだりは全て後半の奇跡に繋がる為の踏み込みなんだろうけど、音楽業界のとても重苦しい裏の部分を垣間見てしまう。

 その後、シュガー達はインターネットなどを駆使し捜索を開始すると思いもよらなかった展開で物語は急加速していく…ここからはネタバレになるので語りませんが、この奇跡には物語の中心である「復活劇」までのストーリーよりも、驚く「ロドリゲス」のとても素晴らしい人間性が多いに関わっている。この人間性がなければ、この映画をここまで奇跡に満ちあふれ、感動がこみ上げる壮大なドラマに成りえなかったのではないだろうか。音楽が好きなら一度は観てもらいたい素晴らしいドキュメンタリーだと思う。

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taikimezaki

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