2013-02-03

『故郷よ』クロスレビュー:土地への愛着や記憶はどれほど強いものなのだろうか このエントリーを含むはてなブックマーク 

人間にとって土地への愛着はどれほどのものなのだろうか?

自分自身、人生で20回以上転居を繰り返したが
それぞれ自分が暮らした場所に再び訪れてみて、
ふとした場所に記憶の断片を見つけることがある
また、突然、記憶の断片がそこの方から上ってきて
その土地に行きたい衝動に駆られたときもあった。
ノマドのような生活をしてきた私にとっても
そのような思いが湧き出ることがある

この映画に登場する二つの家族は、事故後
いずれも故郷プリピャチからそう遠くないところに移り住んだ
故郷には、忘れがたい記憶を残してきた人々である

故郷はそこにある、でも、長くは立ち入ることができない
放射能という見えない危険に覆われてしまった地域を故郷としてしまった人々がいる
ひとつは、ここで取り上げられるチェルノブイリであり
もうひとつは、福島の第一原子力発電所の周辺かもしれない

結婚当日に事故があり、愛する人を失った女性
事故の危険を察知した技師を父にもち、いち早く故郷を離れることになった6歳の少年
事故から10年、故郷から遠くない土地での新しい生活の中でも
昔の思い出から逃れられていない
生活を一変させる強い記憶を残すことになった場所だからこそ
遠くに離れられない

放射能を浴びたことから
自分の前におお引く広がっていたはずの将来の選択肢が
ずいぶん狭まってしまった
普通に家庭を作り生活を営んでいくことができないのではないかという恐れと、
それまでの幸せの記憶から
いつも触れらることはできないが、いつでも触れられる場所に故郷がある土地に
すみつづけるのだろうか
もちろん、自分の愛着のある土地の近くにすめる「幸運」な人は少ないだろう
家族への放射能の影響を考え、発生源からずっと遠い土地にすむことを選ぶ人たちもいる
すでに、その状況は日本にも存在している

福島の事故からも2年がたった。
8年後、このような故郷への思いは、日本でも同じようなストリーを想起させてしまうのだろうか

日本や世界にある多くの原子力発電所やウラン鉱、核廃棄物の廃棄場の周辺でも
将来何らかの問題が発生し
同じようなストイーリーが生まれないだろうか

自然環境、あるいは生態系を破壊するという恐怖の源泉としての放射能とは別の側面、
人や社会のあり方を歪ませる力としての放射能を認識させる
静かながら強いエネルギーを秘めた力として
効果を発揮しそうな映画である。

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samandabadra

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