「CIA史上、最もありえない救出作戦 ーー それは ”ニセ映画” 作戦だった」
このコピーを読んで、どこかコミカルな娯楽映画を想像していたが、それは全くの見込み違いであった。
極めてカジュアルな気分で鑑賞に臨んだ僕は、開映間もなくして息の詰まるような緊迫感に支配され、ほぼ全編にわたって胃に石ころをぎゅうぎゅうに詰め込まれたような感覚に苛まれたのだ。
もちろん、時折緊張を和らげてくれるようなシーンもあるが (ハリウッドで架空の映画のプロデューサー達が軽口を叩き合うシーンは観客にウケていた)、逆にそれがイランで身動きの取れない人質達の閉塞感を浮き彫りにしていく。
多くの日本人はこの事件の根底にある某宗教に縁遠いかもしれないが、それにまつわるキナ臭い事件について現実世界で見聞きしていると思う。それによってこの映画は、殆ど血が流れないにもかかわらず、ヘタなホラー映画よりも恐ろしく感じるのではないだろうか。
正直言って、観終わって数日経った今でも、あのような荒唐無稽な、悪い冗談としか思えない作戦が遂行されたとは信じ難い。
でも、それでいいのだと思う。
小説よりも奇な事実を、幾らか脚色し、役者達の抑制の効いた演技で見事なサスペンスとして再構築してみせたのだ。
テーブルマジックを見せられて丸め込まれたときのように、なんとなく釈然とせず悔しい気分になるのも、一つの楽しみ方なのかもしれない。