ゆっくり考える間もなく、今日みたことをとりあえずレポート的に。
この日は竹橋の国立近代美術館で14日間連続で行われるパフォーマンスの3日目で、映像作品が多い美術家の奥村雄樹氏によるパフォーマンスが行われた。
当日は途中入退場不可、と事前情報があったので少し早めにいったつもりだったけれど、1Fは人・人・人。大学で非常勤で先生もされていたようだから、教え子たちも多いのかしら??奈良/村上のようなポップな大御所だったら分かるけれど、想定外だった、こんなに多くちゃ、定員いっぱいで入場できなくて見れなかったらどうしよう!と、心の中で半泣きしたくらいには大勢の観客が集まっていた。
けれども会場が、いつもは展示会場であるはずの部屋がしきりをいっさい取り外してひとつの大きな空間になっていて、扉があいて中に入ってみれば空間的に充分余裕があった。
扉の中には、ひとつのスピーカー用の席に対し50人分程の席が並べられたセットが、9セットほどはあっただろうか。セットごとの向きはバラバラ。特に案内はなかったが、席があるので、入場した人はとりあえず席を埋めていく。「入退場できませんのでトイレは先に行ってください」などのアナウンスがあったあと、扉がしめられると、席は埋まり、壁には立ち見の方たち。
扉がしまり開始時間になったにもかかわらず(携帯の電源を落としたので正確には時間は分からなかったけど)しばらくは何も起きなかった。カメラで記録撮影している人だけがカメラを動かして周りの様子を撮影している。どの席に座った人も、静かに、顔だけはキョロキョロ。これは、、、何かが起こることを期待するが30分間何も起こらなかったときに人々がどのように振る舞うかを試されているのだろうか、、、どのように振る舞うべきだろうか、と、考えているときに、隅の扉が開いた。
名前とか権力がある人かもしれないけど、途中入退場不可のパフォーマンスで遅れてきたらそりゃあ目立っちゃうよ!!と内心ヒヤヒヤしつつも、その隅の扉から入ってきた数人から目を離せないでいたら、彼らはこの状況下でオロオロすることもなく、いくつかのスピーカー席にそれぞれ歩み寄っていき、そこにおさまった。
わたしがいたセットのスピーカー席におさまった彼女は、レコーダーを取り出し、イヤフォンを耳に装着した。見渡すと、他のスピーカーたちも同様のことをしている。柱があって角度的に見えないスピーカーもいるが恐らく同様だったと思われる。
そして、彼らは、それぞれのマイクに向かって同時に口火を切った。内容は奥村雄樹さんの自己紹介だ。
しきりがあるわけではないので、2−3mしか離れていない左右の隣のスピーカーの声も聞こえる。なので全員、同じ内容を言っているのであろうことは推測できる。同じ内容だが全く同じ文言ではないのと、通訳者独特のタメみたいなものがあるので、復唱ではなく翻訳なのだろうと思われる。(以前奥村氏が東京芸大にて発表した作品が通訳者が映されたものだったのでそう推測したというのもある。)
最初は今いる場所で耳を傾けていたが、これだけ複数いる意味があるはずだと、席を立って他のスピーカーたちの話も聴いてみることにする。
(前の人の頭で見づらいなあと思いながら席に座ったままでいる必要性もなかったし。)
複数のスピーカーの声をきいてわかったのは以下のこと。
・彼らがイヤフォンで聞いている音源は同じであろうこと。
・彼らが日本語に訳している、元の言語は、日本語ではないのであろうこと。
・音源は奥村氏が日本語以外のいずれかの言語で話しているものであろうこと。
・メモをとりながら聞いているスピーカーがいたことから、彼らはそのとき初めてその音源を聞いたのであろうこと。
・スピーカー全員が黙る瞬間が何度かあった。恐らく奥村氏が長文を話したときであろうと思われる。まったく同じ音源を、いっせいのせ、でスタートボタンを押したからであろう。
・スピーカーは全員、プロっぽくなかった。日本語を母語としない外国人も数名は特に、スピードについていけずに訳せなかったときに、抑えつつも照れ笑いを隠しきれてなくて、でも次を訳さないといけなかったりして、ちょこっと、あきらめ感を感じた。
最初は自分だけ歩き回ると目立ってしまって恥ずかしいかなあとチラッと思ったけど、すぐ、多くの観客が歩き回り始めた。スピーカーは動かないが、観客は周りを歩いて聴いてまわったり、一人にスピーカーの声を座って長く聴いてみたり。そうして最後まで、会場は全体的に混沌とした状態だった。
スピーカーによって通訳されて話される内容が、この状態とリンクしていて重要なのだけど、書き疲れてしまったので後日書きたいと思う。大雑把に言えば、奥村雄樹による河原温の作品についての話で、特に、存在する/しない、人の生/死、といった、1と0の合間とかその違いについての話だった。(個人的には、奥村雄樹という作家について理解が深まった、内容だった。これまでの作品についても。)