2012-07-24

『フェイシング・アリ』クロスレビュー:貧困・差別に耐え、激動の60年〜70年を過ごしてきた10人の伝説のボクサーが見た「モハメド・アリ」という神 このエントリーを含むはてなブックマーク 

モハメド・アリ おそらく世界で一番有名なボクサーであり、60・70年代のアメリカン・アイコンでもある。

 これまで知られてきた、そんな「アリ」の印象とは多少違った「モハメド・アリ」を知ることのできる101分。それは彼と拳を交わしたボクサーが彼らの目線で「アリ」を語るからだ。
 96年「モハメド・アリ かけがえのない日々」と08年「ソウル・パワー」(映画を観る前に、この二本は観ておくと、より理解が深まります!)で"キンシャサの奇跡"でアリと対戦する「ジョージ・フォアマン」を筆頭に「ジョー・フレージャー」、「ラリー・ホームズ」、「レオン・スピンクス」、「ジョージ・シュバロ」、「ケン・ノートン」、「ヘンリー・クーパー」、「アーニー・シェーバース」「アーニー・テレル」と彼と激戦・舌戦を繰り広げた錚々たる面々が時にユーモラスに、時には当時を思い出し感情豊かに「アリ」を語り尽くす。

 60年代公民権運動の盛り上がりと共に、マルコムXらが所属する黒人イスラム教集団「ネーション・オブ・イスラム」への入信を機に、リングネームのみならず本名をモハメド・アリに改名する。この有名なエピソードにも当時の彼らは冷静に「アリはマルコムXに傾倒していたがヤツはあることもないことも語っていた」とふり返る。ここでも紛れもないブラック・パワーの象徴と思い込んでいた自分の価値観に、当時の黒人にも冷静な考えを持った者もいたんだな、と理解が深まる。

 有名な「ベトナム戦争」への徴兵拒否の話も、それは当時の黒人や多くのアメリカ人に勇気を与えた、としながらも彼らは「もったいない」とボクサーとしての観点からモノを言う。
 そうである、彼らの何人かは「アリ」よりも貧しい生活と差別を受け、ゲットーで育ってきたのである。「アーニー・シェーバース」はボクサーになっていなければ「殺し屋」になっていたと語り「ラリー・ホームズ」は通りでマリファナを売る生活から脱したかったと語る。また、南部出身の「ジョー・フレージャー」は白人の乗るバスに乗れなかった当時の経験を語る…有色人種の多くがそうであるようにアメリカでは犯罪に手を染めても、戦争へ徴兵されても"貧困から這い上がる"・"自由になる"為には選択なんて、ほとんどないんだ、という現実の厳しさを教えてくれる。その中で天性の才能を持った選ばれし者だけがリングに上がり「アリ」という神と拳を交わす事ができる…彼らはその事実に感謝しながらも愛情たっぷりに、現在パーキンソン病で話す事すらままならない「アリ」の代わりに語り継ぐ。

ボクシングに興味があったり、最低でも男なら、これを観て感動しないヤツはいないと断言できる程、熱い「魂」を感じれる希有なドキュメンタリー。最高でした!



キーワード:

フェイシング・アリ


コメント(0)


taikimezaki

ゲストブロガー

taikimezaki


関連日記