先日、東京FILMEXの会場で『デジタル化による映画文化のミライについて』と題したシンポジウムが行われた。
僕も、パネラーとして参加したかったのだが、デジタル推進派、より正確には、デジタル革命推進者のためか参加させてほしいと直訴したが時間がない、今回は趣旨が違うなどの理由でお呼びがかからなかった。残念。。。
当日は会場に行き、シンポが終わった後、勝手にFILMEXのロビーをジャックして、ドレミ社製のDCPサーバーの実機をドレミの方に持参してもらい、映画館のデジタル化について知ってもらいました。
で、参加できなかったシンポをUSTを見て、なんだかこれは違うぞと思ったので以下、「これが、映画上映のデジタル革命」だということで書いてみます。
「デジタル化」と「デジタル革命」と語句の定義が全く間違っているのでそのことを指摘したい。
無声がトーキーになり、モノクロがカラーにあり、2Dが3Dになり、これは「デジタル化」。
従って、今回のシンポの問題のテーマ、映画館にデジタルシネマがやって来て、アート系の映画の未来は無くなるかというのはピントがずれている。
これは、シンポでも指摘されているように、現在フィルムとブーレイで上映されている独立系映画館も映画の多様性が配給会社からみると担保されているかというとそうではなく、基本は商売の論理で、お客が入りそうな映画を地方の映画館は選び上映している。
で、シンポでの問題は「デジタル化」に遅れた映画館、あるいはデジタル化を資金的な問題で、できない映画館をどうするかのかということが一つ。
もう一つは資金的な問題でデジタル化できない映画館にサービサーと呼ばれる会社がデジタル化の資金を肩代わりしますよ、そのかわり、私たちは配給会社に、もしプリントで上映したらということでかかるプリント代を想定してVPF(ヴァーチャル・プリント・フィー)を請求しますよということの問題点。
この話にのって映画館がデジタル化をしてしまうと、興収が見込めない映画館にはVPFがかかるので配給会社が作品を出せなくなりますよという問題。
上記でいう「デジタル化」とはようするに、おカネの問題である。
もし映画館にお金があれば自費でデジタル化をすればいい。ある映画館では自費でデジタル化をして独自のVPFを配給会社に請求するところもある。既存の会社より少し安い額で。
デジタルシネマのメーカーでありサービサーのソニーはアメリカのNo1の興行会社が持つ6000スクリーンに対して自社のVPFスキームをを導入しているという。VPFとはこの規模の投資額を興行サイドが背負えないので考え出されたスキーム。なので、日本の独立系映画館と配給会社には同額のVPFスキームを強いるのは、まず無理がある。
そこで、僕は、映画のフィルムから「デジタル化」は避けられないので、DCPサーバー150万円以下と既存のプロジェクターを繋いで独立系の映画館はデジタル化を図ってはどうかと提案した。それでも150万円のおカネは必要だが、配給会社にVPFを強いる事も無いので配給会社も作品を出すだろうと。(詳細はこちら→ http://www.webdice.jp/diary/detail/6537/)
しかし、ここで話は最初に戻る、配給会社サイドから見れば、、VPFがかからないから映画を上映してほしいと映画館に営業しても、映画館はそこは商売の論理でお客の入らなさそうなもの、東京でヒットしていないものは上映しませんという事になる。
あれっ? デジタル化とかVPFとかと全然関係ないじゃん、「映画の多様性」は、ということになる。
で、「デジタル革命」とはなにかということである。
「革命」とは、民衆、市民のものである。「デジタル革命」は「デジタル化」とは言葉が似て否なるものである。
既存の映画館にデジタルシネマを導入するのは「デジタル化」である。
映画の「デジタル革命」とは、民生機のカメラで劇場公開作のレベルがの作品が撮れること。ファイナルカットとMacで映画の編集ができること。
「革命」とは民生機でプロの技術を手に入れたこと。今迄高額なスタジオ代を払っていた作業がデスクトップでできる事。
ならば、映画館、映画上映の「デジタル革命」とはなにか。
それは、民生機のプロジェクターと、ブルーレイデッキで、映画館の品質を誰もが手に入れる事ができる事。
既存の映画館の「デジタル化」と別な多様な映画館、映画上映の方法が生まれた事、これが映画上映の「デジタル革命」である。
アップリンクでは、配給素材がブルーレイになってからいわゆる自主上映が増えている。もちろんドキュメンタリーが多いのがまだ現状だが。
すでに「デジタル革命」が進んでいる。まだ既存の映画館を脅かす存在ではないが、なぜなら現状は既存の映画館が無い地域、商売の論理で上映しなかった作品を自主上映をしている。
今後は、既存の独立系映画館とは別に、ライバルとしてではなく映画上映の「多様性」として、カフェで週末だけ映画上映とか、固定された映画館を持たない移動型の映画館とか、トラックが映画館になるとか、アップリンクXのように事務所のようなサイズの映画館とか、撮影、編集において「デジタル革命」により誰もが映画制作ができるようになったように、今、「デジタル革命」によって誰もが、既成の映画館の品質で映画上映ができる、やろうと思えば、映画館を持てるようになったのだ。
例えば、今、アップリンクでヒットしている『大津波のあとに』『槌音』との2本立て上映はデジタル革命の実践の一つだろう。
震災後、家庭用デジタルカメラで撮影をし、パソコンで編集をし、プロジェクター、スクリーン、スピーカー、ブーレイデッキの設備合計が100万円の映画館、アップリンクXで上映している。
ちなみに僕はこのサイズのデジタル映画館をMMT(マイクロ・ミニ・シアター)と呼ぶ事にしている。
監督たちは、宣伝はツイッターなどインターネットを中心に行って、ネットの中の口コミが盛り上がりお客さんを集めている。
さて、この映画はまずシネコンでやるのは彼らが望む動員の規模として無理、独立系の映画館では監督の知名度などを考慮するとハードルが高そうだ。
こういう映画こそ、映画上映に於いて「デジタル革命」を実践して、既存の映画館ではない方法で上映できないだろうかと考える。(アップリンク配給作品ではないですが)
映画上映の「デジタル化」と「デジタル革命」とは全然考えが違うという事をこのコラムで言いたかった。
「革命」は市民の手に。
映画上映の「デジタル革命」とは既存の映画館でないところで既に起きている。
以下補足です。
1)VPFの料金はサービサーとメジャーとだけの話し合いで決められた。独立系配給会社がまとまって、団体交渉をすべき。まとまった一団体は、どのメジャーよりも年間で上映回数が多くなるはず。デジタル化は賛成、ただし交渉はさせて下さいという姿勢。私達の団体は大メジャーです。
2)地方の映画館は配給サイドのDCP配給に備えてDCPサーバーを導入し、民生用プロジェクターと繋げて上映する。その際、将来に備えハリウッド以外の編成を工夫する。邦画配給会社にはKDMフリーあるいはサーバーだけのKDMの発行にしてもらう。
3)文化庁は、デジタルシネマの保存、過去の作品デジタル化の予算を組むべき。巨大なサーバーセンターを作り、そこに日本で製作された全ての映画を保存すべき。映画を製作したらデータを1本収める、国が保存の責任を持つべき施設を作るべき。映画の保存を35ミリという尾はナンセンス。国家予算で巨大で安全な映画専用のデータセンターを作るべき。
4)民生用プロジェクターと繋ぐ方法を僕が提案しているのは、DCI準拠のプロジェクターが高いから。NECの方が小さいプロジェクターを中国用に開発していますと、ただし皆さんのご期待に添える金額になるかはどうかとも。200万円台を希望、ならばハリウッドも上映できる。
5)『大津波のあとに』『槌音』上映情報
http://www.uplink.co.jp/factory/log/004107.php
6)アップリンクの自主上映のページ/レンタルの方法
http://www.uplink.co.jp/filmrental/
7)『デジタル化による映画文化のミライについて』USTアーカイブ
http://www.ustream.tv/recorded/18716773