この映画「ジョン・レノン、ニューヨーク」は1980年12月8日に凶弾に倒れるまで約9年暮らした70年代のニューヨークで「アーティストとしてのジョン」と「一個人としてのジョン」の濃密な人生を、ヨーコも含めた当時ジョンと共に生きた人々が30年の時を経て語るドキュメンタリーだ。
この映画にも映るニューヨークのシンボルだったワールドトレードセンター、そしてジョンがこの世にもう存在しない、という悲劇の歴史の重さにやりきれなさを覚えながら、「偉大な人」というのは濃厚な時を生き、後世までも愛される歌や、語り継がれる逸話を残すものなんだと、という事に改めて感動した。
ジョンが生きた激動の70年代のアメリカと、現在の日本。泥沼化するヴェトナム戦争に対しアメリカ国内で声をあげ平和活動を行うジョンと、今回の震災で先の見えない復興対策や、今後日本国民や地球規模で影響を及ぼすであろう放射能汚染被害への、私達の不安がオーヴァーラップする。
「もし」ジョンがまだ生きていたら、ジョンは今の私達日本人にどんなメッセージを送ってくれただろうか。
イギリス人のジョンが居心地の良さを感じ永住権を取ろうとしていたニューヨークで、反戦運動を積極的に展開するジョンの行動にアメリカ政府は警戒して国外退去の決定がくだされた。しかしジョンはアメリカから離れず、最後にはグリーンカードを獲得した。一方「個人としてのジョン」はヨーコと深く繋がりながらも、ロサンゼルスで「失われた週末」を過ごしてみたり、ヨーコとの愛息ショーン誕生後に「主夫生活」を始め家事をしてみたり、人生を謳歌した。そしてそのニューヨークで不本意ではあったと思うが40年の生涯を閉じたのだ。
そんなふうに目に見えない巨大な権力や圧力に激しく抵抗し、力強く生き、メッセージや思想を送り続けた「人間ジョン・レノン」の声を聞きたいと思った。
当時の映像や映画で流れるビートルズやジョンの音楽は、今でも美しく新鮮で心地良く、私達に多くのメッセージを投げかける。ぜひ大きなスクリーンで、短くも強烈に生きたジョンの人生を見てほしい。