ブッチャーズを初めて見たのは、忘れもしない、当時まだ小滝橋通り沿いにあった新宿ロフトにて行なわれた、イースタンユースのアルバム『口笛、夜更けに響く』レコ発企画でだった。以降、吉村さんには幾度となく「この人は……本当にスゴい人だ」と唸らされ続け、射守矢+小松両氏の「日本のロック界で最も素晴らしいリズム隊」のプレイに痺れさせられ続けている。もちろん、4人編成になってからの田渕さんの魅力についても言わずもがなだ。
90年代の半ば、『ロッキング・オン』という雑誌の編集部に所属していて、ついつい洋楽一辺倒になりがちだった自分に、ここ日本にもオルタナティヴ・ミュージックが、メジャー主導のバンド・ブームやら何やらとは別の地平で、海外のそれにも負けないほど強い個性を持って存在していると思い知らされた経験は、本当に何物にも代え難く、リスナーとしての大きな転換を迫られることになった。そんなわけで、今でもブッチャーズに対しては(イースタンやファウルにも)恩義のような気持ちがある。
ドキュメンタリー映画『kocorono』には、自分がこれまで直に目撃してきた場面も数多く含まれていた。フジロックやエアジャム、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン来日公演のサポートなども含めたライヴの模様だけでなく、関係者からはブッチャーズに関する熱い語りを何度も対面で聞かされたし、あと、吉村さんがライヴ終了後とりわけ不機嫌な時「テンポが速い」という理由で小松さんを責める場面に居合わせたこともある。そうした、ある意味デジャヴな映像が、スクリーン上に次々と映し出されていくのは何とも不思議な感覚だった。ただ同時に、違和感を覚えたり、恥ずかしく感じたりするような箇所はひとつもなかったことは断言できる。そうしたシーンが、彼らの故郷の風景や数多くの名曲とあらためてひと繋がりにまとめられた本作が、現実のブッチャーズをいかに正確に捉えたものであるかは保証しよう。
昨今、海外ロック・バンドのドキュメンタリー・フィルムの幾つかに、ヤラセやウソとまでは言わないものの、少しだけ「演出っぽい部分」を感じていた身としては、『kocorono』という映画が一切の虚飾と無縁で成立したことが、「わざとらしいドラマ」とは無縁の表現を貫いてきたブッチャーズと見事に通じ合っていると思えた。こういうものに向き合った時には、わかりやすくドカーンと興奮したりせず、じっくりジワジワとひたされていくように感動するものだ。
この本当に希有なバンドが、完璧な形で記録にとどめられたことを、川口潤監督はじめスタッフの方々に感謝しつつ、まだまだこれからも続くであろうブッチャーズの果てなき道のりを、ずっと見届けていきたい。