2011-02-07

自尊心と権利獲得のための女達の連帯——映画『Weabak:外泊』——他 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 先週からグッと暖かくなってきたものの、個人的には先月後半から心理的に低空飛行が続き、酒量も増えて、生産性も極端に落ちてます…。先週ようやく、こういう場合はどう対処すればよいか、想い出すことが出来ました。つまり、自分の個人的な状況についてウジウジ思い悩むのを止めて、現在取り組んでいるテーマを様々な方面から見直したり、より分節化するのに集中することです。

 金曜日は夕方から、韓国のドキュメンタリー映画『Weabak:外泊』(監督:キム・ミレ、2009年)を観に、三鷹の東京YWCA武蔵野へ。節約のためもあって、笹塚から明大前経由で京王線で行きました。しかも吉祥寺駅ではなく井の頭公園駅で下車。しかし初めて行く場所だったので、最後は迷ってしまい、上映開始後10分程して入場。とても狭い会場だったので、最後の一席でした。僕の後から来た三人の方は入れなかったとのことだったので、本当にギリギリセーフでしたね。

 『Weabak:外泊』とキム監督については、末尾に某メーリングリストで、今回の上映会と監督トークの案内がまわってきた際に付いていた解説と、作品のホームページのURLをコピペしておきましたので、そちらを参照して下さい。

 また、同作品の日本語版DVDを製作・販売している、連連影展 FAV(Feminist Active documentary Video festa)のホームページも参照。

 http://www.renren-fav.org/main/

 会社から一方的に契約更新の拒否と解雇を通告された、非正規雇用でスーパーで働く韓国の女性達が、法律の隙間を突いた会社の理不尽な遣り口に怒って、団結して立ち上がった。雇用の継続を求めて彼女達が採ったのは、自分達を解雇したスーパーのレジ周辺を占拠して泊まり込むという前代未聞の戦略だった。運動の進め方について論じ合い、取り決めを交わし、料理を持ち寄り掃除もする女性達。当初は日本に負けず劣らず男性中心主義的だと言われる韓国社会で、自分に対する会社を含めた社会の低評価を唯々諾々と受け容れてきた彼女達は、抗議運動の中で、会社と社会の非正規雇用労働者の女性に対する蔑視に、真っ向から挑みかかるまでに変わっていく。化粧もせずに揃いのTシャツを着て汗ばみながら闘う彼女達は、フルメイクで着飾った女達にはない、高揚感と充実感に溢れていた。

 泊まり込みは二ヶ月前後で警察隊により強制的に排除され、その後抗議運動は各店舗内でのデモや、左派系の労働組合や政党との連携へと移行していき、それに伴い主導権も彼女達自身の手から労働運動の「プロ」の男性運動家へと移ってしまう。

 彼女達との直接交渉を断固として拒んだものの、世論に圧された会社はスーパーを他社に売却し、新会社が抗議運動のリーダー13人の解雇と今後三年間のストライキの禁止を条件に再雇用に応じたというのが、最終的な結末。

 前半の高揚感と後半の失望感が鋭いコントラストを成していて、 韓国語が全く分からず、現代の韓国社会のコンテクストについても何も知らないこともあって、本作で描かれている抗議運動は結局、成功したのか失敗だったのかもあやふやだったが、キム監督によると、運動は成功だったと判断されているとのこと。

 この手の作品の常として、観衆の三分の二は中高年の方で、作品とは直接関係ない思い出話を長々とする高齢の男性もいたりしたけれども、的を外れたコメントには中高年の女性陣からブーイングが出されるなど、ピリッと緊張感のある、面白い雰囲気の会場でした。

 また、男性中心主義社会で表向きはリベラルな男を装ってはいるものの、セクシュアリティをはじめ、様々な面で依然男性中心主義に浸り切っていることに、ようやく徐々に気づき始めた男の一人としては、家庭と社会における女性の自尊心の回復と意識高揚のプロセスをまざまざと見せつけられたことは、男性中心主義(僕自身は今のところこれを家父長制とは区別しています)から脱するとはどういうことなのか、考えていく材料をまた一つもらったという感じです。

 帰りは三鷹駅の南口から、玉川上水沿いに井の頭公園まで歩き、井の頭公園を少しぶらついてきました。恐らく15年ぶりの三鷹駅南口は、当時並んでいた古い木造建築の古書店などが一掃され、チェーン店とコンビニで占められた、どこにでもある郊外の私鉄駅前ロータリーへと一変していて、ビックリ&ガッカリ。井の頭公園は運動場のある辺は真っ暗で、静かに物思うのには絶好の環境でしたが、井の頭池周辺は、比較的暖かいこともあって、酔って大騒ぎする若者がいたりして、ちょっと興ざめでしたね。そう言えば、井の頭公園に行ったのも、九ヶ月ぶりでした。

 来週ちょっとした論文の締切もあるし、今週は気を引き締めて過ごそうと思っています。

◆『Weabak:外泊』について     http://film.weabak.info/
2007年6月30日夜、500人の女性労働者たちが韓国ワールドカップ競技場にあるホームエバー・ハイパーマーケットのカウンターを占拠した。翌7月1日「非正規職保護法」が施行。ホームエバー社は法の施行を前に大量解雇を行い、女性たちはその差別的扱いに怒り、立ち上がった。

『Weabak:外泊』は、510日間続いた女性労働者たちの闘いを描く。女性たちはマーケットに毛布を敷きつめ、家を離れ、「外泊(泊まり込み)」を始めた。食料を持ち寄り調理し、互いの思いを語り合う。歌い、踊り、泣き、笑い、労働闘争はいつしか家族的役割からの解放の場を生み出す。

◆キム・ミレ監督
1964 年生まれ。労働問題を通して韓国社会の現実を撮り続けてきた。代表作品に『Always Dream of Tomoorrow(私は日ごとに明日の夢を見る)』(2001)、『We Are Workers Or Not?(労働者だ、違う)』(2003)、『NoGaDa(土方)』(2005)などがある。今回上映予定の『Weabak:外泊』は第11回ソウル国際女性映画祭(2009年)で上映。

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知世(Chise)

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