2010-05-05

コンセール・ポルトレなのだ! このエントリーを含むはてなブックマーク 

新作委嘱シリーズを目論んだとはいえ、その作曲家の作品だけでコンサートを構成することは、最初は考えていなかった。エディットの時にたまたま思いついた、といってもいい。カルチエミュジコのそれまでのコンサートは、ヴァイオリン+αのデュオかトリオのコンサート(その理由は察してください)。少し大きな編成を交えてエディットの作品だけで行こうと決断したのは、彼女の作品リストのヴァラエティのおかげである。それをコンセールポルトレ concert portrait 室内楽作品集と名付けた。議論はいろいろとあった。現代音楽作品だけのコンサート、それも一人の作曲家のコンサートを、聴きたい人はどこにいる…。

聴きたい人がどれくらいいたかは別として、聴いた人は満足してくれた(ようだ)。私も満足した。さまざまな編成、それぞれに異なる曲想・作品・響き、でもそれらを貫くひとつの線というかカラーというか、エディットらしさが徐々にあらわれてくる。全然違う絵を描いたレイヤーを重ね合わせて、別の大きな絵が見えた、というような。

「はじめての曲を聴く」って結構大変なことだと思う。ワタシには大変です。耳を通り抜けて消え去って失われてしまう音たち、はじめまして・さようなら。あれ?いま起きたことはなんだったんだろう、てなもんで。残るのは、チェシャ猫のにやにや笑いのごとき、「何か聴いたかもしんない」感。そういう耳で音楽聞いて、「うわー!」とか「おおお!」とか「あちゃー!」とか感じた時の、一瞬先の喪失感。

コンセール・ポルトレは、一人の作曲家の新作をキッカケに、その作曲家の音楽世界を再構成して聴いてもらうという、まあそれだけのことだけど、でもマニアックな試みというわけでもないような気がする。

前にも書いたけど(http://www.webdice.jp/diary/detail/1124/)、カリン・レヴァイン(fl.) が言っていた「森散歩人的現代音楽聴取のススメ」は、かなりいいセンいってると思うんだよね。

「現代音楽を、どうやって聴けばいいのかと、よく尋ねられます。そんな時、私はこう答えます。ほかの音楽のように、メロディを追いかけて聴かないでください。森の小径を散歩するように聴いてください。森の中で、花やキノコをみつけたり、せせらぎに行き当たったり、小動物に出くわして驚いたり、そういうふうに音楽を聴いてみてください、と。」

カリンさんが作曲家ではなくプレイヤーだってことも大きいかもしんないけどね。自分も譜読みしながらキノコみつけてあわくったりしたのかもね。でも「とても音楽とは思えない音のなり響く異界」である現代音楽(と思っている方々は多かろう)を、そこまでこわくないのよ、せいぜい森の散歩でびっくりするくらいなものよと、引き寄せてみせるカリン・レヴァインは、えらい。

そして、秩父とカヤパスと屋久島とシュバルツバルトと白神山地とサラワク…の森をはしごするより、まずはひとつの森をじっくり歩いてみる、するとここのキノコとあそこの大木と向こうの湧き水のつながりがみえてくる、というようなことではなかろうか、コンセール・ポルトレは。 いきなり沼にどっぽんとはまって蛭に血を吸われて、はい上がった岸で熊に襲われる人もいるかもしれませんが、それは運ってことで…。

YouTubeでみつけたCarin Levineの"Voices of the green hell"。
タイトルが洒落にならないですなー。


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