本当に美味しいものを食べたときに「美味しい」としか言えないように、『鉄男 THE BULLET MAN』の凄さを語ろうとしても、陳腐なほめ言葉が並ぶだけになってしまいそう。
ヴィジュアルに関して、撮影や編集などはもちろん、小道具や衣装やセットなどの細部に至るまで、完全に塚本晋也監督がコントロールできているのは毎度のこと。
加えて音もすさまじく、この音あっての『鉄男~』で、音に妥協は許されない。
凄い映画は、偶然にしか出来ないものではなく、優れた作り手が細部までこだわりぬくことによって作ることが出来るという、「人間わざ」の存在を確認出来た。
塚本監督は、度重なる海外からの監督のオファー受けていたら、高額の制作費やギャラも手に入れたであろうが、映画全体に渡って自分がコントロールでき、スケジュールに縛られずに納得するまで作ることが出来る「自主制作」の自由の方を選んできた。
高コスト故に万人受けするものしか作れず、袋小路に入っている感が強い大作映画より、自主制作による『鉄男~』の方が可能性を感じる結果になっていることが、彼の正しさを示している。
しょせんは手段にしか過ぎず、完成品の良さを保証するものではない「3D」に代表される最新技術や「大作」というふれこみに釣られ、一極集中する傾向がある今の日本の映画の観客たちが、本当に凄い映画の方を向かないとしたら、それはとても不幸な状況なのではないだろうか?