骰子の眼

cinema

東京都 港区

2010-05-23 10:00


[CINEMA]「優れた作り手が細部までこだわりぬくことによって作ることが出来る〈人間わざ〉」 『鉄男 THE BULLET MAN』クロスレビュー

撮影や編集などはもちろん細部に至るまで、完全に塚本晋也監督がコントロールできている
[CINEMA]「優れた作り手が細部までこだわりぬくことによって作ることが出来る〈人間わざ〉」 『鉄男 THE BULLET MAN』クロスレビュー

インタビューページで監督自身から語られている通り、インディペンデントの塊のような鉄男というコンセプトをアメリカ映画のなかでいかに暴れさせることができるかが今作の命題だったと思われるが、塚本監督はそれに勝利したと言えるだろう。『鉄男』『鉄男II/BODY HAMMER』に代わり、青い目をした鉄男が主人公という設定、そして自らの出生の秘密を探し求めていくストーリーは、いわゆる現在のハリウッドの主流といえる影のあるヒーロー像と、鉄男が起源となるサイバーパンクな感覚をウェルメイドに融合させている。アナログの極限ともいえる鉄男への変化の過程は出色と言えるだろう。ロバート・ロンゴを思わせるアンソニーの覚醒シーンをはじめ、塚本監督の様々なサブカルチャーへの愛情が溢れている点も興味深い。

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ラストのカタルシスまでのパワフルな演出力に象徴されるように、監督・脚本・原作・撮影・美術・特殊造型・編集・出演と映画制作のあらゆる局面に携わる塚本イズムは健在。自ら演じる“ヤツ”という極めて〈おいしい〉役どころを設定する点もぬかりなく、塚本晋也の身体感覚が隅々まで行き届いている。そして音響のすさまじさは、ぜひ劇場で体感してもらいたい(さらにつけ加えるなら、最前列で金属バットで殴られるような音の衝撃を浴びてみることをお勧めする)。アンソニーを演じるエリック・ボシックは、センシティブな面とそれに相反する凶暴さを演じきり、息子を奪った者への憎悪を募らせる妻ゆり子を桃生亜希子も、その美しさのなかに狂気を秘めたたたずまいを放ち、主演のふたりが塚本監督の作る絵に拮抗する存在感を醸し出していた点も今作を成功へと導いた要因であるに違いない。なにより塚本晋也という人物の人間力のたくましさが感じられ、決して迎合することなくしゃにむにハリウッド映画に立ち向かい、〈鉄男伝統〉を貫き通した意思と才腕は賞賛すべきものであると思う。



映画『鉄男 THE BULLET MAN』

5月22日(土)シネマライズ他全国ロードショー
出演:エリック・ボシック、桃生亜希子、中村優子、ステファン・サラザン、塚本晋也
プロデューサー:川原伸一、谷島正之
脚本:塚本晋也、黒木久勝
音楽:石川忠
製作:TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009(海獣シアター、アスミック・エース エンタテインメント、Yahoo! JAPAN)
助成:文化芸術振興費補助金/制作プロダクション:海獣シアター
配給:アスミック・エース
2009年/日本/71分/全篇英語/日本語字幕/カラー/ヨーロピアン・ヴィスタサイズ/ドルビーデジタル
公式サイト



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