2010-02-18

もっとも笑いの多いパク・チャヌク (『渇き』を見て) このエントリーを含むはてなブックマーク 

これは、もっとも笑いの多いパク・チャヌクだ。

もちろん、その笑いには暴力と血の味が混じっている。

しかし、いつもながらの暴力描写も、冒頭、主人公の神父が吸血鬼となる理由のいい加減さからして、ああ、これはつくりごとなんだなあ、と思わされて、「吸血鬼映画」のフレームの中の出来事として、安心して、ときに笑いとともに、見てしまう。

「復讐三部作」の暴力は現実と地続きの痛みをともなっていた。復讐者の視点に立たされた観客は、暴力への強い欲求とともに、拳に跳ね返ってくる鈍痛から逃れられず、さらには、様々な人間関係のねじれの中で、復讐者の地位にさえ安住できない居心地の悪さを味わわされる。

一方、この『渇き』では、そうした暴力にたいする意志と躊躇はふたりの主人公によって分かち持たれている。女は殺人を求める。壁に激突し、車に跳ね飛ばされながらも、嬉々として通行人の首筋に牙を立て、血をむさぼる。男は殺人をためらう。自殺志願者から集めた血を、スポーツドリンクのように、プラスティックのバッグからチューブでむなしく啜る。

どちらの姿も滑稽で、笑いを呼ぶ。フレームの外、安全なところにいる観客の笑い。

安全がもたらしたのは退屈だけだったのかもしれない。結局のところ吸血鬼はいつもどおりに、超人的な身体能力で跳びまわり、太陽をさけ、血を求めるだけだ。吸血鬼はフレームを少しも跳び越えない。

なぜ今吸血鬼なのか?最後までわからないまま、映画は終わってしまう。

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a0ta9000

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