(c)2009 CJ ENTERTAINMENT INC., FOCUS FEATURES INTERNATIONAL & MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
パク・チャヌク監督の最新作『渇き』は、『復讐者に憐れみを』(2002年)『オールド・ボーイ』(2003年)『親切なクムジャさん』(2005年)と次々と問題作を発表し続けてきた彼の集大成であり、その作品に特徴的な無尽蔵のバイタリティがいかんなく発揮されている。吸血鬼となった神父サンヒョン、夫とその母に抑圧されながら生きる若い妻テジュ。二人の密かに情を通じるスリルを中心に、人間の本能が有む諧謔と悲しさをパワフルに描ききっているのだ。自らカトリックの信者だった監督の聖職への好奇心に端を発したこの物語は、突然襲いかかる暴力描写や夜の街を飛び回る主人公二人の姿など、突飛な設定を持ちながら、そこに雑多な韓国庶民の団らんの場や無菌室的な彼らのアジトなど時代性を超越したシチュエーションを盛り込む。そして、むさぼるように欲望を求める男女の運命に観客を巧みに引きこんでいく。
(c)2009 CJ ENTERTAINMENT INC., FOCUS FEATURES INTERNATIONAL & MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
背徳的な恋と諧謔は表裏一体であることを、パク・チャヌク監督は知っているようだ。許されぬ愛を突っ走るサンヒョンとテジュの恐ろしくも愛らしいやりとりを通して、監督は人間の本能が有むこっけいさと悲しさを伝える。慎み深い神父と嬉々として獲物を狙う二面性を演じ分けるソン・ガンホの演技の安定感とともに、キム・オクビンのコケティッシュな魅力は、画面からはみださんばかりだ。ひたひたと満ちるエロティシズムとあっけなく繰り返される殺人を彩る、紺青のテジュの衣装と鮮血のコントラストといった色彩感覚も目に焼き付いて離れない。人間の尊厳を教える神父が、他人の血を飲まなければ生きていけないというアイロニーを通して、果たして我々の生命とはどんな意味を持つのかというヘヴィなテーマを、たゆまぬユーモアとバイオレンスを通してこの映画はあっけらかんと伝える。
映画『渇き』
2月27日(土)より、 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督・共同脚本・共同プロデューサー:パク・チャヌク
出演:ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク
2009年/韓国・アメリカ/133分/スコープサイズ/ドルビーSRD
配給:ファントム・フィルム