骰子の眼

cinema

東京都 千代田区

2010-02-22 21:10


[CINEMA]「パク・チャヌクの暴力に対する意志と躊躇はふたりの主人公によって分かち持たれている」『渇き』クロスレビュー
(c)2009 CJ ENTERTAINMENT INC., FOCUS FEATURES INTERNATIONAL & MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

パク・チャヌク監督の最新作『渇き』は、『復讐者に憐れみを』(2002年)『オールド・ボーイ』(2003年)『親切なクムジャさん』(2005年)と次々と問題作を発表し続けてきた彼の集大成であり、その作品に特徴的な無尽蔵のバイタリティがいかんなく発揮されている。吸血鬼となった神父サンヒョン、夫とその母に抑圧されながら生きる若い妻テジュ。二人の密かに情を通じるスリルを中心に、人間の本能が有む諧謔と悲しさをパワフルに描ききっているのだ。自らカトリックの信者だった監督の聖職への好奇心に端を発したこの物語は、突然襲いかかる暴力描写や夜の街を飛び回る主人公二人の姿など、突飛な設定を持ちながら、そこに雑多な韓国庶民の団らんの場や無菌室的な彼らのアジトなど時代性を超越したシチュエーションを盛り込む。そして、むさぼるように欲望を求める男女の運命に観客を巧みに引きこんでいく。

 
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(c)2009 CJ ENTERTAINMENT INC., FOCUS FEATURES INTERNATIONAL & MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

背徳的な恋と諧謔は表裏一体であることを、パク・チャヌク監督は知っているようだ。許されぬ愛を突っ走るサンヒョンとテジュの恐ろしくも愛らしいやりとりを通して、監督は人間の本能が有むこっけいさと悲しさを伝える。慎み深い神父と嬉々として獲物を狙う二面性を演じ分けるソン・ガンホの演技の安定感とともに、キム・オクビンのコケティッシュな魅力は、画面からはみださんばかりだ。ひたひたと満ちるエロティシズムとあっけなく繰り返される殺人を彩る、紺青のテジュの衣装と鮮血のコントラストといった色彩感覚も目に焼き付いて離れない。人間の尊厳を教える神父が、他人の血を飲まなければ生きていけないというアイロニーを通して、果たして我々の生命とはどんな意味を持つのかというヘヴィなテーマを、たゆまぬユーモアとバイオレンスを通してこの映画はあっけらかんと伝える。



映画『渇き』

2月27日(土)より、 ヒューマントラストシネマ有楽町新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督・共同脚本・共同プロデューサー:パク・チャヌク
出演:ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク
2009年/韓国・アメリカ/133分/スコープサイズ/ドルビーSRD
配給:ファントム・フィルム

公式サイト



レビュー(5)


  • KONさんのレビュー   2010-02-14 11:43

    いろいろ満載~

    この映画を見たいなぁと思ったのは、韓国のバンパイヤーってどんなのかなぁというところと、官能(ウフ という宣伝文句。 "官能"なんて、最近見かけてないっ!(笑 神父様、吸血鬼という事で、映画は厳かでちょっと暗い雰囲気なのか...  続きを読む

  • kaminoteさんのレビュー   2010-02-18 14:09

    人間として、神父としての道徳

    ソン・ガンホの演技力にはいつも驚かされます。 しかし、今回は主演女優のキム・オクビンがすばらしかった。 執拗なまでのベットシーンなど、表情や声だけでなく体全体で表現される感情に、幾度となく鳥肌がたちました。 中でも印象に残っているのは、真夜中に...  続きを読む

  • a0ta9000さんのレビュー   2010-02-18 16:06

    もっとも笑いの多いパク・チャヌク (『渇き』を見て)

    これは、もっとも笑いの多いパク・チャヌクだ。 もちろん、その笑いには暴力と血の味が混じっている。 しかし、いつもながらの暴力描写も、冒頭、主人公の神父が吸血鬼となる理由のいい加減さからして、ああ、これはつくりごとなんだなあ、と思わされて、...  続きを読む

  • waseikobaさんのレビュー   2010-02-20 20:21

    血だらけ

    不治の病の実験台になった神父が輸血からバンパイアになるお話 幼なじみと再会して、不倫に走る神父 男と女の渇き(血に対する)違いがおもしろい 吸血鬼になった二人の血への渇きの満たし方の違いが対照的でそれがラストシーンで 表現されいています。 ...  続きを読む

  • sunflower816さんのレビュー   2010-02-21 00:02

    猟奇的な中にある悲しみ

    心臓をわしずかみにされたようだった。自分の中の生きることへの空虚感、焦燥感や弱さを指摘されているように感じたからだ。テジュが夜中に寝巻き姿、裸足で町を全速力で走る姿に自分の置かれた立場や生きることの閉塞感が伝わり胸を突かれた。そんなテジュにサンヒョン...  続きを読む

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