今週の月曜から水曜までは、「途上国」のHIV/エイズ関連の英文記事の和文要約に追われていました。今日(28日)の朝方に何とか終了、今日は夜まで爆睡していました。
その中で、火曜の夜はアムネスティのメーリングリストで参加者を募っていた、映画『インビクタス/負けざる者たち』(監督:クリント・イーストウッド、出演:モーガン・フリーマン、マット・デイモン他、米国、2009年)の試写会に、霞ヶ関のワーナー・ブラザース映画試写室へ行って来ました。拙宅からは代々木上原から千代田線一本で行けるので、楽でした。
1990年のネルソン・マンデラの釈放に、熱狂する黒人と、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、自分たちの今後を危惧する白人の対比から、物語は始まります。
中心として描かれるのは、94年に、脱アパルトヘイト後の、初代南ア大統領になったマンデラが、一方では復讐心に燃える黒人を抑え、他方では白人の恐怖心と警戒感を和らげながら、南アフリカ国民としての一体感を作り出そうと尽力する姿です。そのために彼が「利用」したのが、95年に南アで行われた、ラグビーのワールドカップに出場する、南ア代表チームです。
物語の一番の盛り上がりは、間違いなく、早い段階での敗退が予想されていた、南ア代表が勝ち進み、決勝で延長戦の末にニュージーランド代表を破って、優勝を決めた後、人々が、黒人も白人も一体となって、南ア人としての勝利に酔いしれる、ラストシーンです。しかし個人的に最も心動かされたのは、長年酷く抑圧され続けてきた黒人の、旧支配層の白人に対する「自然な」怒りの感情を抑える一方で、政治権力を握った黒人に対する白人の不安感も溶いていく、マンデラの理知と自制心でした。勿論、そこには、国外から投資を呼び込み、経済を成長させ、国民生活全体を底上げするためには、社会情勢の安定が第一であり、そのためには、何よりもまず第一に、人種間の融和が欠かせないという、 新生南アの大統領としてのリアリスティックな現実理解があったのでしょう。
http://wwws.warnerbros.co.jp/invictus/#
http://ja.wikipedia.org/wiki/インビクタス/負けざる者たち
ただし、95年のラグビー・ワールドカップから15年経った南アの現状は、決して理想的なものではないようです。異常に高い犯罪率(例えば殺人は日本の110倍!)や失業率(28-30パーセント!)、人種間および人種内の所得格差の拡大など。このような経済・社会情勢の悪化から、国民の恵まれない層による、コンゴやジンバブエから流入してきた移民に対する排外運動も起きているそうです。また、国民の4人から5人に一人という、HIV感染率も、極めて憂慮すべきものでしょう。
ちなみに、池田加代子さんと竹田圭吾さん(ニューズウィーク日本版編集長)という、上映前のトークショーの人選には、やや「?」でした。南アフリカの専門家を読んだ方が、作品理解のためにはよかったのではないかと思います。