<ネタバレあるのでこれから観る人は注意を>
ユーロスペースで松井良彦監督の『どこへ行くの?』を観ました。
映画を作らなかった期間が20年あまりといいますが,松井監督のその映画製作の感性は全くなまっておらず,傑作に近い作品でした。
死が全く描かれていない『海猿』などとと比べるのもなんですが、『どこに行くの?』の素晴らしさは、殺人と死体の処理を丁寧に描いている事につきます。
その殺し方と、死体を運び出し、燃やし、さらにその灰を海に捨て、そして、運んだトランクを海に捨てる迄の行動を車での移動撮影をはさみ、たんたんと具体的に描いていきます。
この映画のクライマックスは世界映画史の死体処理ランキングのトップクラスの描写でした。
そして、監督が描こうとした、この死体処理という行為の天秤の反対側にはそれに匹敵する愛の重さがあるというのを十分感じました。
以前『海猿』を観た時に、「死」と「セックス」をきちんと描かない映画には「生」も「愛」も描く資格はないと言いましたが、その点では、この映画の大きなポイントである「セックス」を『クライング・ゲーム』並みには描写して欲しかったと思います。そうする事で、いくつかの説明的なカットは省く事が出来たのではないでしょうか。
70万円のダイヤの結婚指輪を買うシーンで、店主は40万円の値札のところから持ってくるキャラクターの造形により、お金の持つ悲しさを表現している描写は日々会社経営で苦労している身としては、人間の小さな業を見せつけてくれたと感心しました。
とにかく死体処理シーン迄はサスペンスという映画的な手法でぐいぐい引っ張っていってくれ傑作です。ただ、その死体が完全に処理された後、映画は予定調和的にロマンチックになり過ぎたのではと思いました。
観客へのサービスを意識したのではないでしょうが、この映画は観客に擦り寄らず、どこかへ行って欲しいと思いました。
すぐに次回作の製作を期待します。