ニューヨーク州最北部とカナダの国境付近にネイティブアメリカン、モホーク族の保留地があります。ヨーロッパから入植してきた人たちがアメリカとカナダという国を作り、国境を作ってしまったために現在のような状態になっているのです。
この保留地という場所は独自の社会を作っており、いわば治外法権の地なのです。したがって州法の適応を受けないため、アメリカでは限られた場所でしか行うことができないカジノを行っているところが多いのです。
主人公のレイはトレーラーハウスで暮らしています。もっといい家で暮らしたいから頑張って働いてお金を貯めていました。なのに、今日支払いをすることになっていたお金を博打好きの夫に持ち逃げされてしまった所から物語が始まります。
夫を探しに保留地へ行き、そこで夫の車を運転している女性を見つけます。彼女(ライラ)を追いかけて問い詰めると、車はバス停に置いてあったから拾って来たのだというのです。
ライラには子供がいるのだけれど、義理の母に連れ去られてしまっています。その子を引き取って育てるためにお金が必要なので、危ない仕事をしています。
カナダとアメリカの国境にある川は冬になると凍結し、氷が厚いところは車でも渡れるようになるのです。そのルートを使って密入国者を運ぶ仕事は、危険だけれど実入りのいい仕事だったのです。
それまでは全く接点のなかった白人のレイとモホーク族のライラの、唯一つの共通点はお金が必要だということでした。
車を運転するのが白人だと警察にチェックされないから、運転手をしないかというライラの提案に、レイは思わず同意してしまったのです。
昔アメリカへ行ったときに現地の人が「トレーラーハウスに住んでいる人たちは、この町の中で一番貧しい人たちだ」と言っていました。冬にはマイナス40℃にもなるような厳しい気候の中では路上生活は無理です。最低でもトレーラーハウスが必要なのです。
夢も希望もお金もない2人の女性がどうしても手に入れたかったのは、家族と暮らすための「家」であり「お金」でした。そのために危険を顧みずに突っ走れたのは、貧しさゆえだったのです。
貧しさゆえに犯罪を犯してしまうのは、それしか選択肢がないからです。真面目に働けば、それが必ず報われるとは限らないから。人種や性別や年齢によって条件の良い仕事を得ることができないから。そういう悲劇は世の中にどれだけあるのやら。
最後に2人がああいう結論を出したのは、「家族を守る」ということを第一に考えたからなのでしょうね。やっぱり「母は強し」なのですね。
普通だったらやるせない結末になりそうなところだけど、そうじゃないところが女性監督の手腕なのでしょうか。
この作品は2008年サンダンス映画祭でグランプリを受賞しており、その時の審査委員長であるクエンティン・タランティーノ監督が大絶賛しています。
また、主演女優賞(メリッサ・レオ)とオリジナル脚本賞(コートニー・ハント)が2009年アカデミー賞にノミネートされました。
けれども地味な作品であるため、日本では大手の配給を受けることができないままでした。やっと2010年1月からいくつかの映画館で上映することが決まりました。
とても素晴らしい作品なので、是非みなさんご覧になってください。そして2人の母親の決断に応援をしてあげてください。