主演のクリスティン・スコット・トーマスが絶品の作品だ。あまり感情の起伏を見せず、ほとんどが無表情なのだが、人生で背負ってきたものの重さを内面から感じさせる、見事な演技には終始感服してしまった。そのクリスティンの名演から、声なき声で語られる元囚人の孤独感、そして息子を殺した罪悪感が、この作品の大きなテーマとなっている。
この作品の物語では、元囚人を受け入れがたい社会、囚人だった者を家族として受け入れる実妹たち、そして元囚人に対する嫌味な関心、という3つシチュエーションが元囚人の主人公の目線で描かれている。この中で、主人公に対する他人たちの関心が、逆に人間の心にある冷酷さを見せつけていたことは、とても興味深かった。
物語の途中、主人公へ恋心をもつ妹の同僚について、妹が彼のこれまでを話すくだりがある。そのとき、主人公は「私はあなたに自分のことをまだ話してない」と言って、同僚を語る妹の話を遮ろうとする。このシーンに、元囚人という立場の人間としての弱さがストレートに描かれていると感じた。
今の社会では、人と人が付き合うとき、内面やこれまでの人生を言わないと、相手に胸襟を開いていないと思われてしまうことがよくある。しかし社会の中での人づきあいとは、よほど好意をもつものでなければ自分のことを語る必要などないはずだ。なのに、それを聞きたがる人が多いのは、どこかに自分と相手を比べたがり、自分が相手より優位な点があるかどうかを見極めたいと思う人間が多くなったからだ。しかし、それは元囚人が社会の中にもう一度はいっていくときの大きな壁となってしまう。
この作品では、普段は気づかない、現代の社会にある無作法さや悪意などが透かして見えてきて、ある意味、観ている者はろ学ぶべきとこが多いと感じた。それは、元囚人という視点から見た社会を描いているからこそ、ではなかったかと思う。その視点を最後までブレなかった、監督のうまい演出力が光る作品なのである。
ラストにかけて、主人公がなぜ自分の息子に手をかけたのかが語られるときの衝撃さは、大きな感動を呼ぶ。だから、一番肝心な点は伏せておくが、人間の深遠な部分にどこまで踏み込むことができるのか、観たあとにとても考えさせられることの多い作品であることを、これから観ようとしている方は肝に命じておいてほしいと思う。