派手なアクション・シーンが中心のこの作品の中で、地味だが印象的なシーンがある。それは、パリで誘拐された娘を助けるために奔走する前の、元CIAの主人公の父親の普段の部分だ。彼は、娘への誕生日プレゼントにカラオケ・セットを買おうとするのだが、使い方がわからないために何度も説明書を読み返す。そして、娘を撮る写真はデジカメでなく使い捨てカメラ、さらに撮った写真を丁寧に古いアルバムに貼る。主人公は現代のデジタル社会がよくわからない典型的なアナログ・オヤジなのだ。
ところが、娘が誘拐された途端、このアナログ・オヤジは犯人に「俺は特別な才能がある。娘を助けるために、お前たちを追い詰める」と言い放つ。このアナログぶりのどこに「特別な才能」があるのか、この無茶とも言える主人公の自信が、この作品のすべてだ。
そんなアナログ・オヤジを演じた「シンドラーのリスト」の名優リーアム・ニーソンは、この作品の中で、実に見事なアクションを次々と見せる。それは、ときおり、もし娘がいたら助けられないのでは、と思うくらいに相手をメチャメチャにするほどの激しさだ。そして、娘のためなら苦手なデジタル機器もなんとか操作しようとする。
今のデジタルの時代、オヤジの世代もいやおうなく新しい機器に慣れなくてはならない。しかし、それは与えられてきちんと使用法を説明されて使えるもので、自分からデジタル機器にトライして使おう、というオヤジはほとんどいないとい言っていいと思う。つまり、今のオヤジたちはデジタルを使いこなしているようで使われているだけ、という「実はアナログ・オヤジ」というのが大半なのだ。だから、この作品の主人公にはとても共感したり、憧れの目で見つめてしまう同世代の人は多いと思う。
この作品、登場人物のキャラクターが図式的過ぎるほど単調に描かれているだけに、娘を愛し、娘のためなら何でも、という自信と誇りと信念さえあればなんだってやる、という主人公のオヤジの強烈なキャラクターが、なおさら際立っている。今、娘や息子たちに疎遠になっているオヤジたちは、この作品を子どもたちといっしょに見て、もういちど、自信をよみがえらせてみてはいかが、かと思う。