探している物に出会う感覚、そんな映画でした。なんといっても人物同士の距離感の描き方に引き込まれた。ヒロインのエミリー・ワン(マギー・チャン)の失ってからわかるものの表情に引き込まれた最高の映画です。
かつてはミュージシャンとして成功していた夫とエミリー。しかし、現在はふたりとも落ち目になり、ドラッグに溺れる日々を送っています。ある日、ケンカをしてエミリーは家を飛び出してしまうのですが、その間に、夫がドラッグの過剰摂取で亡くなってしまいます。そしてエミリー自身も、ドラッグ所持で逮捕され、刑務所へ。ふたりの間には幼い息子がいるのですが、夫の両親が引き取って育てています。刑期を終えて出所したエミリーは、ドラッグをきっぱりとやめて、パリで再出発しようとするのですが、現実は予想以上に厳しいものでした。
かつての音楽仲間に連絡をとるものの、すでに過去の人になっており、ウェートレスやデパートの販売員として働き始める。それでも幼い息子を引き取って新しい生活を始めるべく、もがき続けます。その逆境からの夢に向かって、健気に努力するマギーのパワーは名演です。泥沼の感情を抑えた淡々とした生活感の描写の中にも、彼女のクリーンな生命力が鮮やかに描かれていて、女性の強さをつくづく感じさせられました。ヤク中の女性の話だからもっと激しい部分もあるかと思いましたが、、どちらかというと、けだるい雰囲気とやるせない悲しみに満ちています。これもマギー・チャンの演技によるものでしょう。主演のマギー・チャンがすごくいいです。厳しい現実を目の当たりにし、辛いのをこらえているような表情に、ぐっときます。その一方で、息子と一緒にいるときの優しい顔や、映画の終盤で、夫の父親に見せる笑顔。レコーディングの合間にひとりで号泣するラストシーン……。それまでのエミリーは、泣く余裕さえなかったんですよね。やっと、人生をやり直せるメドがたって、自分の気持ちに素直になれたんでしょうね。マギー・チャンの魅力なくしては語れない映画で、元夫のオリヴィエ・アサイヤス監督ならでは、の作品だと思います。舞台はカナダ、フランス、イギリス、ところころ変わり、彼女は三ヶ国語で話します。3ヶ国語をうまくあやつり、ひとりの女性のパワフルな生き様を見ていると、生き抜く精神力の強さに勇気づけられました。
監督は、この映画で人間の本質的な魂の美しさ、孤独とは何か?を描いていると思います。最高の女性映画です。
又この映画では、80年代のミュージック、トリッキーなど使用されています(本人も出演してますが)。楽曲にもこだわった映画ですので、サントラも購入しに行く予定です。