GWは映画館で映画ばかりみまくりました。
というわけで、極私的なお薦めランキングです。
これから映画館で観る映画の参考になれば幸いです。
第1位は、『新宿インシデント』。
知っていましたか、90年代新宿歌舞伎町は中国からやってきたジャッキー・チェンに支配されていた事を。冒頭、日本海の若狭湾。夜の海岸。漂流した中国人達がうごめく虫のように映し出されるシーンからこの映画はただものではない事を感じさせてくれます。中国人の視点から歌舞伎町の裏社会を描いた怪作です。邦画はつまらない、ハリウッドに負けていると思っている大人の人にぜひ勧めたい、確かに邦画はそうかもしれないが日本を舞台にしたアジア映画はここまで面白い。アジアの問題に関心のある人、NPO、NGO関係者、石原都知事が嫌いな人、スコセッシの『ディパーテッド』より『インファナル・アフェア』の方が1万倍面白いと思っている人は観た方がいいです。僕は歌舞伎町の映画館のレイトショーで観たのですが、東京の人は歌舞伎町で観る事を強く勧めます。映画を観た後映画館を出ると映画の面白さが倍増します。構想10年という監督のイー・トンシンの力技に感服しました。
唯一残念なのは、公式サイトがMacだとsafariでもfirefoxでも反応しないのだけど。
http://www.s-incident.com/
2位は『ミルク』
なんで、この作品がPG-12という映倫のレイティングなの!?まさか同性愛の描写のせい!?そんなことはないはず、今は21世紀、ハーヴェイ・ミルクが生きていた70年代とは違うはず。でも先の大統領選でカリフォニア州で一旦認められた同性婚を取りやめる法案「プロポジション8」が提出され、その提案は可決され、カリフォニア州では再び同性婚は合法ではなくなった。なにも変わっていない、映画の中と。『ミルク』は、文科省選定映画にすべき作品。新宿のバルト9で深夜見たのですが小さなスクリーンでしたが結構お客さんが入っていました。そのドキュメンタリー『ハーヴェイ・ミルク』はアプリンクで上映中ですと宣伝を。
(追記)さっき映倫に電話をしてその理由を聞きました。「同性愛と同性愛者を描いた題材とその描写」というのがその理由だそうです。まあ、法律じゃないけど、これじゃミルクの時代と変わらないのでは!?映倫の規定が、同性愛、同性愛者を特別視しているなら削除してもらいたい!
http://milk-movie.jp/enter.html
3位は『チェイサー』です。
日本映画にはない怨念とか情がこの映画にはある。どちらに悪いかわからないが、角度によっては中原昌也君を思い出してしまう容貌のキム・ユンソクは元刑事でデリヘルのオーナー。韓国で起きた実際の連続猟奇殺人事件を元にしているという。とにかく感情が大きい、草食系男子などは韓国にいないのだろう。出てくる男は皆熱い。僕は大阪生まれなのだが、東京ではあまり見かけないが大阪にはよく見かけるアホな人間が映画の中にはたくさん出ていた。スタバで待ち合わせてパスタを食べに行くのではなく、がつんと焼肉を喰うような映画を観たいという人は満足すると思います。この映画のナ・ホンジン監督はこの作品が長編デビューだという、恐るべし韓国映画界。六本木のシネマートで観たのですが、この劇場がいい感じであか抜けていなく、『チェイサー』を観るには相応しいと思いました。
http://www.chaser-movie.com/
4位は『ベルサイユの子』
フランス映画祭で満員になった映画で、チラシのイメージだとかわい男の子と若い男性の優しい関係の映画だと勝手に思って観にいきましたが、全然違いました。映画は格差社会の落ちこぼれた側の映画でした。ホームレス、老人介護、子供の養育、親子問題などリアルな社会問題満載の映画です。ただ映画はその社会問題を声高に訴える訳でなくたんたんと描いていきます。ベルサイユと言えばベルばらと刷り込まれた僕にとって、宮殿の周りに森があり、そこに掘建て小屋をたてロビンソンクルーソーのように住んだりできるというのがまず驚きでした。子供はチラシどおりかわいいです、それ目当ての人は安心を。シネスイッチ銀座で観ましたが観客は格差社会の勝ち組と思われる上品な方が多かったです。
http://www.zaziefilms.com/versailles/
5位は『スラムドッグ$ミリオネア』
中田秀夫監督に教えてもらいましたが、ハリウッドのスタジオは編集時の保険としての様々な角度から撮るというカバレッジにより結局どれも似た絵作りになっていることを。というわけで、ハリウッドのスタジオには絶対作れない絵作りの映画。ヨーロッパ資本で作られ英語字幕がところどころあっても英語がメインなので外国語映画賞ではなくアカデミー本選のオスカー受賞した作品。順番としてはテレビの櫻井翔が出ている『ザ・クイズショウ』を先に見ていたのですが、映画があまりにもテレビにそっくりで百万倍映画の方が面白いのにびっくりしました。日本のテレビ業界はどこか裏で通じ合っているのでしょうか。フジテレビが配給に出資している映画を日テレが『ザ・クイズショウ』によって宣伝しているとは。オリジナルを観ろと。本物は違いますよと。さて、インド映画お決まりのダンスシーンはエンドクレジットで出てくるのですが、これだけは本家のインド映画の方がぜんぜん上。本家には演歌でいうこぶしがあるのです。西欧で言えばジェイムス・ブラウンのステージのような型が。イギリス出身のダニー・ボイル監督のダンスにはそのこぶしが今ひとつでした。
http://slumdog.gyao.jp/
6位『ウエディング・ベルを鳴らせ!』
あの傑作『アンダーグラウンド』を撮ったクストリッツァは幸せにはなったようです。なんだかいくつものゼンマイ仕掛けのおもちゃが勝手に動き出しているような映画でした。とにかく出て来る人はみんな素朴でおばかさんばかりです。ハッピーエンドと最後にクレジットが出てくるこれがクストリッツァは本当に撮りたかった映画なのだろうか、セルビア共和国に映画として描くべき問題は無くなったのでしょうか。いやそもそも映画で何がしかの社会問題を描かなければならないというこちらの想いが固定概念なのでしょう。この映画は徹頭徹尾ファンタジーであろうとします。それは、決して悪い事ではないのですが。いや、それともこのむやみに明るく振る舞うしかないということが現在のセルビアに向けられた監督の批評性なのでしょうか。予告編は、日本ではYoutubeを使った宣伝は控えているようなので海外版です。
http://www.weddingbell.jp/
7位は『グラン・トリノ』
傑作、傑作と言われていたのでどこかけなしてやろうとさもしい根性で観に行きました。観る前から宣伝で傑作と言われすぎるとちょっとね。でも、傑作でした。しかしこの傑作は万人の傑作という事ではなくアメリカ大統領選の時に共和党のマケインを支持した人にとっての傑作です。大統領選はもちろん民主党のオバマが勝ち、マケインは負けました。選挙戦ではイーストウッドはマケインを支持し応援していました。どうしてイーストウッドがブッシュの共和党の支持者を応援するのかと思いましたが、マケインの履歴を知るとこれが『グラン・トリノ』のイーストウッドそのものでした。マケインはベトナムで5年半も捕虜になったといいます。でも、人権侵害が著しかったグアンタナモ捕虜収容所の閉鎖も主張していたらしいです。おばかブッシュと違い、マッチョではあるが人間としての魅力はありそうです。『グラントリノ』はイーストウッドの脚本ではありませんが、観る方は監督イーストウッドと映画の中のイーストウッドを重ね合わせて観てしまいます。僕はあの親父はかわいいところもあるけど嫌いです。なぜならマッチョな自分の力を信じて、子供をぼこぼこにするからです。子供の喧嘩に大人が出ていっていいのか。あれさえなければ隣の家のモン族の彼女はレイプされずにすんだのにと思います。
マッチョな考え方のアメリカは終わった、その考え方では世界はよくならない、世界の警察としてのアメリカはもう必要ないということで最後にイーストウッドを殺した新人脚本家のニック・シェンクのメッセージが讃えられるべき作品でした。
あれっ、この主張は民主党のオバマ大統領に近いですね。
http://wwws.warnerbros.co.jp/grantorino/#/top
8位『キング・コーン』
人間は何によってできているかという命題の答えは「食べたもの」というのは生物学的には正解でしょう。牛肉とファストフードばかり食べているアメリカ人はコーンでできているのであったというところから映画は始まる。でも、それが映画の全てでした。その答えと答えの間を監督達は実際に1年かけてコーンを栽培し収穫するのだが。映画を観ると本気でアメリカ人の健康を心配します。こんな食事で育った子供が大人になったら本当にアメリカは大変な事になっていると思う。戦争を他国でやっている場合じゃないでしょ。ところで食の映画関連ではアップリンク配給によりこの夏『未来の食卓』という南仏のある村が小学校の給食をオーガニックにするということに挑戦したドキュメンタリーを公開しますと宣伝です。
http://www.espace-sarou.co.jp/kingcorn/top.html
9位『レイン・フォール/雨の牙』
「どうやってあんな傑作を生み出すのかわからない」と『グラン・トリノ』を評したのはニューヨークタイムズらしいですが、『レイン・フォール』を評して「どうやってあんな失敗作を生み出すのかわからない」というのは厳しすぎるでしょうか。監督、脚本のマックス・マニックスは『トウキョウソナタ』の脚本家としてもクレジットされています。失敗している原因はわかります、それは脚本です。同じく外国の監督が東京を撮った『新宿インシデント』と比べるとあちらには中国人達が日本で生きていく必然性があった。こちらは殺し屋椎名桔平にもジャズピアニスト長谷川京子にも、CIAゲイリー・オールドマンにも誰一人存在の必然性、リアリティが感じられないことに問題があります。GW最後の日に豊洲のユナイテッドシネマで夜観てきました。お客さんは僕を含めて5人でした。この時間帯は明日から仕事なのでしょうがいないですね。
http://rain-fall.jp/
さて最後は『GOEMON』です。
最下位という事ではなく、邦画部門唯一のランキング入りということであり、番外とさせていただきます。出演者の眼の色が全員青いという日本映画をまず眼の色を変える事からハリウッドに近づこうとした映画でした。でも今年のオスカーはハリウッド映画ではなくインドを舞台にした作品に。本気でハリウッドと張り合うなら英語がペラペラであろう紀里谷監督には英語映画に挑戦してほしい。
ヤフーのこの作品に対する賛否両論の映画レビューを見てあなたのネットリテラシーを確認してみては。http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id330507/
http://www.goemonmovie.com/index.html