『ジャーマン+雨』の横浜聡子監督がメジャー映画を撮った、しかもキャストは松山ケンイチと麻生久美子、と聞いて、凄え大抜擢、でもそれはちょっと無理じゃないか?!と思うのは、ごく自然な反応だろう。だが、心配は無用だった。子供のような、ケモノのような生命力を漲らせた農業青年@青森を幸せそうに好演する松ケンも、交通事故で亡くなった恋人の失われた首の行方を占い師に教えてもらおうと東京からやって来た保育士に扮する麻生久美子も、見事に溶け込む横浜聡子ワールド!そればかりか、ベテラン・藤田弓子までもが、その微動だにしない髪型と似た安定感を保ちながら、オール青森ロケ、全編津軽弁の世界に取り込まれ、それは原田芳雄や渡辺美佐子においても同じなのである。通常と逆に、踏み切りを超えた後の遮断機を背にして電車が通過するのを待つ麻生久美子と同様に、我々観客も若干のためらいを覚えつつ、一度その異世界に嵌れば抜け出せなくなること受け合い。窮地に追い込まれると野菜でも書類でも何でもまき散らした後、奇声を発して駆けていく松ケンのようにストーリーは闇雲に暴走し、恋はハートなどという通念を文字通り停止させながら、いわゆるハッピーエンドとは異なった、けれどしたたかな生命力に溢れたラストにたどり着く。感覚と理性、不条理と常識、マスとコアなど様々な壁を易々と乗り越えた、脱農薬、脱脳味噌映画の最高峰。横浜聡子、恐るべし。