2009年、チベットが中国に占領されてから50年目を迎えた。
この50年のうち33年間、占領下で自由を拘束され
迫害や拷問の中で生きながらえ
その過程で多くの同胞の運命を見てきた人が
この映画の主人公、パルデン・ギャツオである。
彼の迫害や拷問の体験が現在も続く状況と重なり合わされ、
インド亡命後、チベット独立のため戦う姿が
映像や彼の語りや多くの証言とともに描き出される。
しかし、彼を支配する感情は激しい怒りではなく
静かな、まさに雪の下の炎のように、ほのかに見える情熱である。
彼は言う、
「人々の破滅を願うことは、己の破滅を招く」と。
ロシア占領下にあったポーランドの作家シェンケヴィチが
『クォヴァディス』の中で描いた迫害を受けるキリスト教徒が
それでも支配者に向かって、
その罪を許そう
と語る姿に重なりあって見えた。
インターネットで読める日本語版の人民日報は
連日、中国政府はこれだけの発展をもたらしたのだと語る。
しかし、その支配によってこの50年間
直接的、間接的に120万人のチベット人が亡くなったといわれている。
規模からしても600万というチベットの人口からの割合から見ても
そしてこの映画がかたるチベットの状況からも
チベットが得たものは強調される「発展」に見合うとは思えない。