男女が横たわり、互いに見つめ合う。この美しいチラシ画像にひかれ、日本公開を楽しみにしていた作品である。監督は、『蜘蛛女のキス(1985)』『黄昏に燃えて(1987)』などで知られる巨匠ヘクトール・バベンコ監督。主演は若手演技派俳優ガエル・ガルシア・ベルナル。原作が、『ブエノスアイレスの夜(2001)』脚本のアラン・パウルスというのだから、期待が膨らむ。
ストーリーは、12年間連れ添った2人が離婚するところから始まる。その理由は明かされない。男リミニ(ガエル・ガルシア・ベルナル)はすぐに新しい女性と付き合いだす。一方、女ソフィア(アナリア・コウセイロ)は別れた男に執着を示し、リミニの記憶が失われ、新しい家庭まで崩壊してゆく。ブエノスアイレスの街の湿った空気がよく似合う。
この物語が、一貫してリミニの視点から描かれる点が、興味深い。女性と知り合う時も、元妻からの嫌がらせも、常に受動的。末に極限まで追い詰められる精神的脆さを、ガエル・ガルシア・ベルナルが見事に表現している。また最近、実生活でも父親となったガエルが、赤ん坊の手を握り、ベビーカーを押すシーンなどは、ファンにとってのサービスカットであった。
もしこれが、単なる泥沼メロドラマなら楽しんでみるところであるが、ラストのまとめ方が気になった。ソフィアは常に「写真の整理」に拘泥していたのだ。それは彼らが共有した過去(El Pasado)と向き合うこと。愛し合っていた頃の自分たちを思い出すことである。離婚理由の分からない観客にとっては、「ただそれだけ?」なのである。おそらく、この原作には膨大なエピソードや感情が含まれていたものと思う。それを脚本や編集の段階でそぎ落とされたため、不連続な点の集まりに見えてしまったのが残念である。