まずはじめにお断りしておきます。
このレビュー、ちょっとヒイキしてるかもしれません。いや、映画の関係者に知り合いがいるとかそんな理由じゃなく、何か魅かれるというか、とても好きな映画なので、もう一方的にヒイキするです。という理由からなんですが。
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その昔、作家の村松友視氏が「私、プロレスの味方です」の中で、プロレスラーのジャンルとしての「悪玉」と「善玉」という勧善懲悪型のスタイルに対し、ファイティングスタイルが何か凄い、観ているだけで心に訴えるチカラを持ったパフォーマンスを観せるレスラーとしての「凄玉」の存在・出現を説いたが、この「デメキング」という映画作品は、そんな「凄玉」の映画である、と思う。何がスゴいのかはこの後述べる。
原作としてクレジットされているいましろたかし、という漫画家の存在は知っていたし、実際「デメキング」というタイトルの漫画を読んだ記憶も、ある。ただ、どんな作品であったかはすっかり忘れていたし、それが未完である、と言う事も知らなかった。しかし枯れた、というか、情けない人間を、正しく情けなく描けるヒトだなあという印象は持っていた。そしてその内容も、投げっぱなしというか、キャッチボールをしてても、どこかとんでもない遠くにぶん投げて平然としているような印象も持っている。しかもその投げた球は飛んでもなく遠くに、ものすごい速度で飛んでゆくのだ。
で、改めてこの「デメキング」という映画を観てみると、それらの印象がそのまま映画として提示されちゃってるなあと、驚いたですよ。もちろん、漫画とは違うメディアである以上、同じものとは思わないが、豪快にぶん投げて後はそのままのいましろ的な印象がちゃんと存在している。
時は1970年、港町に住む冴えない中学生亀岡は、同級生たちと遊ぶ事なく、3人の小学生と共に「少年探偵団」を結成して息巻いていた。そんな夏のある日に、遊園地で働く何を考えているかよく解らない青年・蜂屋と出会う。そして蜂屋から聴く「デメキング」という存在。蜂屋は「デメキング」の正体を辿る謎掛を残し東京へ旅発つ。そして亀岡と少年探偵団は蜂屋の手紙を元に、「デメキング」の謎を解くために小さな冒険に旅立つ。そして彼らが発見したものとは・・・・。
プレスシートには「デメキングの正体は決して明かさないでください」と書かれているので、この先はあまり詳しく書かないが、映画の骨子は亀岡と少年探偵団のひと夏の冒険譚であり、そして平行して描かれる蜂屋の謎めいた行動。この2つの話が別々に進みながら、時おり交差して謎が少しづつ見えてくる。
とはいえ、ストーリーは先にも書いたように、期待を持たせておきながら豪快にぶん投げる無責任さ(正直それが気持ちいいんだけど)もあって、素直で解りやすい一本道。下手すりゃ単調で平版になってしまいそうなこのネタを、映画として「スゴイ」と思わせる大きな要素が、画面からにじみ出てくる「徹底した丁寧なつくり」。
画面のデザイン、セリフ、若い役者たちの演技、音楽、効果音、どれをとっても「全く手を抜いてない」感じが画面からジワジワとにじんでいる。要するにどの場面、どのシーンもすべて異様に完成度が高いのだ。画面がムチャクチャ緊張感高いのに、ストーリーそのものは抑揚も少なく静かに進んでゆく。その不気味なほどの静かさが、丁寧なつくりのこの映画に、さらなる重みを持たせるというか、派手な部分はほとんど無いのに全然目が離せない。静かにスゴイ、まさにコイツは「凄玉」の映画なのではないか?
「凄玉」のレスラーが見せるように、技のひとつひとつに派手さはないが、ズシンと効くような重み、ゆっくり動いているように見えるけれど、恐ろしくキレのあるジャーマンスープレックス的な感じとでも言おうか。本当に最後のシーンまで目が離せない。
したがって正直面白みもないシンプルな話なのに、映画としてムチャクチャ面白い。何か矛盾しているようだが本当なのだ。ワンカットワンカット、本当に神経質なほどていねいに、ていねいに撮ってるその気の遠くなるような積み重ねが、映像に無言の説得力を与えているのだろう。
そしてやっぱり一言書いておきたい「デメキング」のシーン。
詳しく書くコトは避けるが、この「デメキング」登場のシーンは、古今ある特撮モノの中でもず抜けて秀逸。先にも書いたように、すべてのシーンがていねいに作られており、そしてそれは特撮のシーンでも等しく同じクオリティで展開される。寺内康太郎監督、本当にいい仕事しています。というか、この映画に関わったすべてのヒト、全くいい仕事しています。スゲエよ、みんな。
静かに、ゆっくりと動く、何かスゴいモノを観ちゃったなあ。これだけ丁寧につくられた映画はホント珍しい。やっぱ「凄玉」なのね、デメキングは。2009年始まったばかりだけれど、今のところ今年のベストワンです。ワタクシ的に。