昨年、タランティーノ監督のカースタントマンへの愛情をほとばしられたような「デスプルーフ」が公開されたが、このアレックス・コックス監督久々の新作は、タランティーノ以上に映画への愛に満ちた作品だった。コックス監督、意外にも映画オタクだったのですね。
偶然出会った元役者の二人が、子役時代に出会った脚本家から受けた仕打ちへの復讐をするためにモニュメントバレーへ向かうのが、この作品のストーリーなのだが、その中で印象に残ったは、復讐をテーマにした映画に関して登場人物三人が論じ合うシーンだ。「復讐はエンタテイメントだ」との意見に対して、「古典劇では復讐は、する側も報いを受ける。エンタテイメントにはなりえないものだ」と反論する、口角泡を飛ばさんばかりに論じ合う様は、見ている側はなかなか痛快だった。今年、「復讐される側も悪だが、復讐する側も悪になる」ことを描いてみせた好作「ダークナイト」で、9.11以降に復讐の戦いを行った国に対する皮肉と批判を感じたのだが、その「ダークナイト」に共感した者には、復讐劇を具体的に論じたこの作品は、我が意を得たり、と思わす膝を打つだろう。
ところで、私の個人的なことで恐縮なのだが、私は旅行会社が発行する旅行案内誌の記事を書くことを仕事にしているので、この作品の後半に登場したモニュメントバレーのグールディング・ロッジのシーンは大変参考になった。ロッジの内容や併設する博物館の内容などがよく描かれていて、今後の自分の仕事に大いに役立たせていただけるものだった。
ただ、そこまで描けたのは、グルーディング・ロッジとタイアップしていたことによるものだったことが、エンディングで分かる。ところが、コックス監督は、そのタイアップによる映画製作にも痛烈な批判と皮肉を、この作品の中で論じて見せている。このアレックス・コックス監督の新作、なかなか侮れない面白さに溢れていると感じた。