メールの返事をいただいた。真摯に対応してくださっているのは分かるが、美術館側というか事務局側の主張にどうも納得がいかない。彼らの主張は以下だ。
《「VOCA展」は参考資料・解説などのステイトメントを置かないで作品のみを展示する展覧会である》
僕が配布したかったのは参考資料や解説とまでもいかないもので、ポートフォリオの代わりに、それと同等の機能をもつ情報を可能な限り簡略化しA42枚分にまとめたもので、うち1枚はただの略歴だった。
実際を見ていないので事実とは異なる可能性もあるけど、他の出品者が閲覧可能として提示しているポートフォリオは、僕が情報を切り詰めて配布しようとしたものよりも情報量が多く、より説明的なはずだ。もう自分で説明してしまうけど、上記の2枚の配布物以外でポートフォリオの代わりに閲覧用として用意した「作家資料」は、僕がオーガナイズした過去の音楽イベント(主に海外のアーティストや国際的に活動されてる日本人のアーティストをゲストに招いたもの)と、僕も主要なメンバーとしてずっと関わってきた仙台を拠点としている「ひどいイベント」という、音楽を軸にしているけれども、それだけに限定されない敢えてひどいものを、つまり転倒した価値を演者と客両方にねじ込むようなイベント(2014年はCOSTES、DICK EL DEMASIADOを招いて開催した)のフライヤーだけをメモ帳にセロハンテープで適当に貼付けたとんちんかんなものだった。美術で頭がいっぱいになっている人たちへの皮肉として、敢えて音楽のものだけに絞った。本当はポートフォリオとは少し違うが、これまでの作品についてのかなり長いステートメントがあっていつでも提出できる状態にある(以前提出していたものが出されてしまっていたらしいけど。なぜわざわざ提出していたかというと、要請されたものはきちんと誤りなく提出しておきたいという僕の元来の性格から、またそれによってフェイクの忠誠心を事務局に示しておけるからです)。
「ひどいイベント」は展示している3点のうち1点の作品タイトルでもあるから、その相互の繋がりが理解できるようになっている。でもそれは説明ではないのだ。
いっそ説明してしまうけど、作品の方の『ひどいイベント』に描かれているモチーフは、性器をモチーフにしたGoogleのロゴと、僕が描いて一度だけ使用した「ひどいイベント」のロゴをアルゴリズミックにシャッフルしたものだ。
こと地方にあっては、文化の稀薄さからオンラインでその欲求を満たしたり買い物をしたりと、インターネットへの依存度が高まる傾向にある。それは実在の地域文化をよりスラム化させる。その皮肉と上述のCOSTESを招いたことの事実の暗喩としてのGoogleロゴだ。COSTESを知らない方に少しだけ説明すると、彼は日本ではスカムのレジェンドとして認知されるフランス人のアーティストで、その悪名高いパフォーマンスは、裸で糞便をまき散らしながら宗教や人種問題などについて言及する徹底して露悪的な、それでいてユーモラスなものだ。僕の印象では決してスカムでなく、かなり知的で多面的なアーティストだと思う。ギャスパー・ノエの映画にも出演する俳優でもあるし、音楽家のノエル・アクショテとも共作を行い、アクショテのレーベルからはグレゴリア聖歌のオルガンによるカバーをリリースしている。宗教や社会が抑圧する禁忌をことごとく破っていこうとする揺るぎのない信念を感じるし、実際に会って話してみた印象も、とても思慮深く繊細で生真面目な人というものだった。
大事なことなので技法にも触れておく。僕たちが「地域文化のスラム化」に瀕していることへの危機感から、なんとか自分たちで自律した文化的な何かしらを打ち立てられないだろうかという実践のひとつが「ひどいイベント」だが、その自律性を表すという意味で、仙台の伝統工芸技術である、漆塗りに起源を持つ「玉虫塗り」という技法を用いた。これは職人さんに作っていただいた。職人さんとの連絡などいろいろと協力してくださったのは「ひどいイベント」にも来てくださったことのある方だ。
上記のような情報を全て詰め込んであるのが今展示している作品『ひどいイベント』で、その背景には大勢の方の関わりがある。それをちゃんと示したかった。
その『ひどいイベント』の作品写真をここに載せてしまおうと思う。カタログの写真はフラットすぎて、せっかくの表面の光沢の美しさが表れていない。実物をぜひ見ていただきたいが、あの内容で入場料500円は高いと思います。