映画『ヴァンサンへの手紙』レティシア・カートン監督
モントリオール映画祭ほか数々の映画祭で上映され、世界中のろう者を魅了し、聴者に衝撃を与えたドキュメンタリー映画『ヴァンサンへの手紙』の日本公開が10月、アップリンク渋谷にて決定した。
監督のレティシア・カートンは、ろう者の友人・ヴァンサンが突然に命を絶ってから10年後、「ろう者の存在を知らせたい」という遺志を継ぎ、彼が教えてくれた「もうひとつの世界」にカメラを向け、ろう者の“心”を描き出す。
本作は昨年4月に東京ろう映画祭で『新・音のない世界で』として上映され、大きな成功を収めた。その反響を受ける形で日本公開が決定。買い付けたのは『LISTEN リッスン』(雫境との共同監督)でろう者の「音楽」を探求し、高い評価を得た映画監督の牧原依里。ろう者である彼女もまた「ヴァンサンは私だ」と声をあげた一人だ。
【共同配給・聾の鳥プロダクション代表 牧原依里のコメント】
この映画は私の人生そのものだった。観ている間、私は自分の人生を思い返していた。この映画はこの世界を生きるろう者たちの痛みと喜びを如実に映し出していた。気がつくと涙が止まらない自分がいた。私の心の深いところを突いてきたこの映画をもっと日本に広めたい??。そう思った私は、未経験ながらもこの映画を買い付けることに決めた。自分と違う世界を持つ相手を受け入れ、知ろうとするのは、実に難しい。それはろう者と聴者に限らず、誰でも起こりうることだ。だからこそ、ありのままを受け止めて欲しい。この映画が、家族でもない、手話通訳者でもない、なんでもない聴者とろう者が繋がるきっかけの一つになることを願っている。
ニコラ・フィリベール監督の傑作ドキュメンタリー『音のない世界で』(1992年)に登場していた、耳に大きなヘッドフォンをあて、声の出し方を教わる子どもたち。「話すこと」を求められた彼らの、その後の物語ともいえる本作は、ろう者の存在に再び光をあて、彼らが抱える言葉にならない複雑な感情に“目”を澄ます。
映画『ヴァンサンへの手紙』
1880年ミラノでの「第2回国際ろう教育国際会議」で手話を排除する決議が採択され、2010年バンクーバーで行われた「第21回国際ろう教育国際会議」で少数派の言語文化を認める決議までの130年間、手話は排除されていた。そのことがろう者に及ぼした影響について知ることのできる作品となっている。
映画『ヴァンサンへの手紙』
映画『ヴァンサンへの手紙』
2018年10月、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
友人のヴァンサンが突然に命を絶った。彼の不在を埋めるかのように、レティシア監督はろうコミュニティでカメラを回しはじめる。美しく豊かな手話と、優しく力強いろう文化。それは彼が教えてくれた、もう一つの世界。共に手話で語り、喜びや痛みをわかちあう中で、レティシア監督はろう者たちの内面に、ヴァンサンが抱えていたのと同じ、複雑な感情が閉じ込められているのを見出す。
「ろう者の存在を知らせたい」というヴァンサンの遺志を継ぎ、レティシア監督はろう者の心の声に目を澄ます。社会から抑圧され続けてきた怒り、ろう教育のあり方、手話との出会い、家族への愛と葛藤…。現代に生きるろう者の立場に徹底して寄り添いながら、時に優しく、時に鋭く、静かに、鮮やかに、この世界のありようを映し出す。
監督:レティシア・カートン
音楽:カミーユ(『レミーのおいしいレストラン』主題歌)
編集:ロドルフ・モラ
共同配給:アップリンク、聾の鳥プロダクション
宣伝:リガード
ドキュメンタリー/112分/DCP/2015年/フランス/フランス語・フランス手話