映画『ラッカは静かに虐殺されている』トークイベントより、岡崎弘樹氏とナジーブ・エルカシュ氏
シリア内戦をテーマにした映画『ラッカは静かに虐殺されている』が14日に公開初日を迎え、アップリンク渋谷では土日全回満席になるなど大ヒットスタートを切った。同日、都内・アップリンクにて開催されたトークショーに、シリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュ氏とアラブ思想・シリア文化研究者の岡崎弘樹氏が出席。奇しくもこの日、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして、米トランプ政権と英・仏が共同でシリアに対する軍事攻撃に踏み切ったというニュースが飛び込み、この事態に対して両氏が言及した。
本作は、イスラム国(IS)に支配され、混迷を深めるシリア北部の街ラッカの惨状を、インターネットを駆使して世界に発信している市民ジャーナリスト集団「RBSS/Raqqa is Being Slaughtered Silently」の命懸けの活動を追うドキュメンタリー。第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた『カルテル・ランド』のマシュー・ハイネマン監督がメガホンを取っている。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』
シリア攻撃の一報に対して、日本の新聞社からコメントを求められたエルカシュ氏は、「私にとっては、今日は特別な日ではない。虐殺はずっと続いている。なぜ、トランプ政権が攻撃したときしか取材しないのか?」と苦言を呈したことも明かした。
一方、岡崎氏は、「“今日の攻撃はどうか”ということよりも、それを踏まえながら、もっと大きな議論を作っていくことが大事だ」と強調した。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』
戦後史上最悪の人道危機と言われるシリア内戦。その中で過激思想と武力で勢力を拡大するISが、「ユーフラテスの花嫁」と呼ばれた美しい街ラッカを制圧。本作では、その生死の狭間で戦うRBSSの姿を追っているが、「ラッカは、素晴らしい宝の山。内戦によって荒廃した街を整備すれば、一大観光地になるようなところ。同時に有能な作家、ジャーナリスト、小説家を数多く輩出していて、歴史と文明が揃った街でもある」と称える岡崎氏。そんな平和で才能溢れる街が、なぜ虐殺の対象になったのか。「シリア人ではない外国人戦闘員がISの中核。ラッカにいるスンニ派の部族が、宗派感情などをうまく利用されながら、次第に取り込まれていったのではないか」と述べた。
映画『ラッカは静かに虐殺されている』
また、「RBSSの面々は顔を出して発言しているが、その反面、危険度も増すのでは?」という観客からの問いに対して、エルカシュ氏は、「今月6日に、早稲田大学の講義で、Skype中継を通じてRBSSのメンバーの1人、ハッサン・イーサ本人と話ましたが、彼が言うには、『シリア政府はフェイクニュースが非常に多く、“本当はISのメンバーではないのか?”などという、あらぬ疑いをかけられたため、それを払拭するために顔と実名を公表するという行動に出た』と説明していた」と回答。
ただ、「彼らは未だに命の危険にさらされている」という事実は変らず、「潜伏先のドイツから今は別の国に移動し、セキュリティのしっかりしたところに隠れて生活しているようです」と安否を気遣っていた。まさに、この映画は過去形ではない、現在進行形なのだ。
(取材・文・撮影:坂田正樹)
映画『ラッカは静かに虐殺されている』
アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開中
次々と殺されていく仲間や家族。そして自らにも忍び寄る暗殺の魔の手—。
ドキュメンタリー史上、最も緊迫した90分
監督・製作・撮影・編集:マシュー・ハイネマン(『カルテル・ランド』)
製作総指揮:アレックス・ギブニー(アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞『「闇」へ』監督)
2017/アメリカ/92分/英語・アラビア語/1:2.35/5.1ch/DCP
配給:アップリンク