映画『ラッキー』トークイベントより川瀬陽太氏(右)と樋口泰人氏(左)
ハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作『ラッキー』の公開記念イベントが28日、アップリンク渋谷にて行なわれ、 俳優の川瀬陽太氏と日本全国各地にて爆音上映を企画・上映するboid主宰の樋口泰人氏が登壇。役者ハリー・ディーン・スタントンの生き様について、熱く語り合った。
本作は、自由で堅物で一匹狼、90歳の頑固じいさんラッキーが、ちょっと風変わりな街の人々との交流を通じて、「死」と向き合い始める物語。『パリ、テキサス』『レポマン』『エイリアン』など200本以上の作品に出演したハリー・ディーン・スタントンの人生になぞらえて描かれたたラブレターともいえる作品。
かねてよりハリー・ディーン・スタントンへ憧れていたという川瀬氏は「89歳で主演して91歳まで生きるなんて、そんな出来た俳優人生なんてない。潜在的にスタントンのことは見ていたが、初めて役者ハリー・ディーン・スタントンとして認識したのは『エイリアン』だった」と述べ、アメリカ映画に精通している樋口氏は「僕も『エイリアン』で初めて認識した。他にはサム・ペキンパーの『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』に出ているが、スタントンとペキンパ―は1歳違い。ペキンパ―が亡くなったのは何年も前で、スタントンはついこの間まで映画に出演していたというのは、本当にすごい。そう言えば撮影時に、共演していたボブ・ディランと飲みに行って撮影に遅刻し、激昂したペキンパ―に銃で撃たれかけたという話もある」とエピソードを披露。会場は笑いに包まれた。
映画『ラッキー』より
話題は、ハリー・ディーン・スタントンの代表作『パリ、テキサス』へ。川瀬氏は「まるで書割りのように映画に出続けてきたスタントンだからこそ、ヴィム・ヴェンダースは彼を起用したんだと思う。日本でも欧米でも、いわゆるアート映画みたいなものが礼賛されていた時代に、まさにスタントンは求められていたのかもしれない。スタントンはずっと名もなき役を演じてきたが、『パリ、テキサス』で遂に主役を演じた」と語り、樋口氏は「『パリ、テキサス』のサントラを担当したライ・クーダーとも親交が深く、彼のアルバムで歌を披露している。『パリ、テキサス』のスタントンを知っている人にとったら、この曲を聴いたら泣かざるを得ない。スタントンはミュージシャンとしても活躍して、みんなから慕われて、そんなことってそうそうない」と言及。
映画『ラッキー』より
樋口氏は「俳優から見てスタントンは、特別な演技訓練を受けた跡が見えたりしますか?」と川瀬氏に質問。昨年30本以上の作品に出演したという川瀬氏は、「スタントンは、時間をかけて油を抜いた俳優。 特別なことをしなくても、スタントンがいるだけで映画がスタントンのものになっている。このポジションは、スタントンしかいない。なんでそうなったか判然としない。戦争体験や、残酷な映画業界で直面した別れや死はあっただろうけど、見えてこない。ただそこにいるだけで現場の空気、グルーヴ、ペースを作れる人だったのではないかと思う。まさに現場から愛される人」と役者ハリー・ディーン・スタントンについて熱弁をふるった。
映画『ラッキー』は 新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか絶賛公開中。
映画『ラッキー』
新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。いつものバーでブラッディ・マリアを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中でふと、人生の終わりが近づいていることを思い知らされた彼は、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、去っていった100歳の亀、“エサ”として売られるコオロギ――小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく。
監督:ジョン・キャロル・リンチ(『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』出演)
出演:ハリー・ディーン・スタントン(『パリ、テキサス』『レポマン』『ツイン・ピークス The Return』)、デヴィッド・リンチ(『インランド・エンパイア』『ツイン・ピークス』監督)、ロン・リビングストン(『セックス・アンド・ザ・シティ』)、エド・ベグリー・ジュニア、トム・スケリット、べス・グラント、ジェイムズ・ダレン、バリー・シャバカ・ヘンリー
配給・宣伝:アップリンク
2017年/アメリカ/88分/英語/1:2.35/5.1ch/DCP