映画『ラッキー』トークイベントに登壇した大久保賢一氏
ハリー・ディーン・スタントンの最後の主演作『ラッキー』の公開記念イベントが21日、アップリンク渋谷にて行なわれ、 ハリー・ディーンが表紙を飾る1989年12月号『SWITCH』の特集で、彼の家へ行きインタビュー行った映画評論家の大久保賢一氏が当時のやり取りや、ハリー・ディーンについて語った。
大久保賢一氏は最初に、「いまご覧になった『ラッキー』、主人公のラッキーを演じたハリー・ディーン・スタントンは一見、とてもぶっきらぼうにみえます。この作品は彼自身の生涯、生活、考え方、それに基づいて作られたのですが、ハリー・ディーン自身とすごく重なると思ったのは、ぶっきらぼうに見えて、まったくこびないという生き方をしてきたということ」だと説明する。
大久保賢一氏によるインタビューが掲載されている1989年12月号『SWITCH』の表紙
続いて当時を振り返り、「1989年という遠い昔の話ですが、彼の自宅に行ってインタビューをしました。 デヴィッド・リンチの映画でおなじみのマルホランド・ドライブまでレンタカーを走らせてドアをあけると、ハリー・ディーンが手を合わせてお辞儀をしました。“日本式のお辞儀”だと言ってね。プライベートでは彼は絶対に、上から目線にならないという人でした。インタビュー中、ショーン・ペン、ジャック・ニコルソンから電話がかかってきて、そのやりとりを聞いていると、タメ口なんです。何歳であっても、骨のある、ゆずらないところがある、そんな映画人とは同じ目線で付き合うんですね」と彼の人となりを表す出来事を話した。
映画『ラッキー』より
映画にも登場し、ハリー・ディーンと実際、長きにわたる友人である デヴィッド・リンチについて大久保氏は「デヴィッド・リンチは、彼を自分の作品6本に出演させました。 リンチは彼の演技についてこう言っています。“普通の俳優はセリフを言うその瞬間に芝居をしようとする。でもハリーはそうじゃない。続いている時間の中で、口を開かないときのハリーがどれだけ素晴らしいか!”と。我々はそのことを彼の映画で十分に味わってきたと思う」と俳優としての彼の存在を賞賛。
映画『ラッキー』よりハリー・ディーン・スタントンとデヴィッド・リンチ
最後に「インタビューの最初に、ハリー・ディーンが“まず最初に朗読を録音してほしい”と言いました。それがシアトル酋長の演説です。ワシントン州と後に呼ばれることになる土地を収めていた酋長が、大統領に届くように朗読しました。原文が存在せず、ねつ造とも言われています。でも、それでもいいと思うんです。この美しい言葉を、ハリーがとても好きだと言った。“俺たち全員にとって重要な言葉だから聞いてほしい”と。途中で電話がかかってきたり、テープがひっかかったり、犬がきて中断したりしまうが、聞いてほしいと思います」と締めくくり、録音したハリー・ディーンのスピーチを会場に流した。
―生命のつながり―
自分にもよくわからない。私たちの生き方はあなた方とは違う。白人の建てた都会の風景はインデイ アンの目に痛い。でもそれもインデイアンは未開人で 理解能力がないからなのだろう。
私たちの知らない間にバッファローがすべて殺され、野生の馬が飼い慣らされ、森の奥の秘密の 場所に人間のにおいがたちこめ、繁った岡がおしゃべりする針金(電線)で覆われるようになってし まった。茂みはどこにあるのか。今はもうない。鷲は どこにいるのか。今はもういない。(シアトル酋長の演説より一部抜粋)
映画『ラッキー』は 新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか絶賛公開中。
映画『ラッキー』
新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。いつものバーでブラッディ・マリアを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中でふと、人生の終わりが近づいていることを思い知らされた彼は、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、去っていった100歳の亀、“エサ”として売られるコオロギ――小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく。
監督:ジョン・キャロル・リンチ(『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』出演)
出演:ハリー・ディーン・スタントン(『パリ、テキサス』『レポマン』『ツイン・ピークス The Return』)、デヴィッド・リンチ(『インランド・エンパイア』『ツイン・ピークス』監督)、ロン・リビングストン(『セックス・アンド・ザ・シティ』)、エド・ベグリー・ジュニア、トム・スケリット、べス・グラント、ジェイムズ・ダレン、バリー・シャバカ・ヘンリー
配給・宣伝:アップリンク
2017年/アメリカ/88分/英語/1:2.35/5.1ch/DCP
▼映画『ラッキー』予告編
映画『パリ、テキサス』
アップリンク渋谷にて3月30日(金)まで上映
84年度カンヌ国際映画祭パルムドール賞受賞、ロードムービーの最高傑作!
荒野の果てに何があるのか――トラヴィスは歩き続ける。84年度カンヌ国際映画祭パルムドール賞受賞、ロードムービーの最高傑作!記憶を失い、荒野をひとり彷徨う男トラヴィス。4年間失踪し続けた理由とは?息子との絆を取り戻し妻への愛を貫く男が夢見た、”パリ、テキサス”。音楽をライ・クーダー、撮影はロビー・ミュラーが担当、ヴェンダース監督の代表作。84年度カンヌ国際映画祭パルムドール賞受賞。
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:サム・シェパード
撮影:ロビー・ミュラー
音楽:ライ・クーダー
出演:ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー、ハンター・カーソン、ディーン・ストックウェル
1984年/フランス・西ドイツ/146分