日本の映画界にも数多くのファンを持つ中国の鬼才ロウ・イエ監督の最新作『ブラインド・マッサージ』の公開初日イベントが14日、新宿K'scinemaにて行なわれ、ゲストには本作でも「ロウ・イエ監督の大傑作!美しさと愛を見つけるための盲目の物語。心から血が出るほど、痛い」と賞賛の言葉を寄せたミュージシャンの曽我部恵一氏が登壇。楽曲制作でも影響を受けるほど敬愛してやまないというロウ・イエ作品の魅力について熱く語った。
「愛について描こうと思わなくても、結果的に愛がテーマになってしまう。なぜなら、みんなが共通して何かを欲しがっている――たとえば、心の安らぎやあたたかさ、必要なものや欠落しているものを探して生きていて、それを表現しようとすると『愛』という言葉になってしまう」(曽我部恵一氏)
「最初に『ブラインド・マッサージ』を観たときは朝の4時半くらいで、画面に向かって泣きましたね。雨の中、マッサージ院の窓の外にあるネオンサインや風景が滲んで流れていく静かで美しいシーンが印象的でした。ずっとロウ・イエ作品は観ていますが、なかでも今作は最高傑作と言っても過言ではないほどの大傑作だと思います」と開口一番に大絶賛した曽我部氏は、その特有の世界観について「ただ、いつも作品を観たあとはすぐに言葉が出てこないくて、時間をかけて感情を咀嚼していくようなところがある。でも、それは作品自体が具体的なものを求めていないから。言葉や形にならないものをどうにか掴もうとしているような映画だし、だから観たひとも同じように形にならないものを掴むのに、感情を整理する時間が必要なのかもしれませんね」と指摘。
続いて曽我部氏はこの作品の音楽について触れ、「今回もそうなのですが、いつも音楽が素晴らしいです。決してポピュラーなアーティストの曲を使っているわけではないのですが、作品に合った音楽を見つけてくるのが上手いんでしょうね。でも、映画の最後に詞のある曲が流れるのはいいなと思う反面、難しいこと。たとえば、すごくいい映画の最後に作品とはまったく関係のないポップ・ソングが流れたりすることがありますが、ロウ・イエ作品で流れている曲には『ここはこの曲じゃなくちゃいけないよな』と思えるような必然性があって嬉しくなります」と、監督の音楽のセンスにも惚れ込んでいる様子。
最後に、自分の音楽活動とロウ・イエ監督の映画づくりの共通点について「愛について描こうと思わなくても、結果的に愛がテーマになってしまう。なぜなら、みんなが共通して何かを欲しがっている――たとえば、心の安らぎやあたたかさ、必要なものや欠落しているものを探して生きていて、それを表現しようとすると『愛』という言葉になってしまう。そういう意味では、どんな歌もラブ・ソングだし、どんな映画もラブ・ソング。ロウ・イエ監督も映画を通じて“見えない何か”を掴まえようとしていると思うし、自分も音楽を通じて“見えない何か”に触れられたらいいなと思います」と実感を込めて自身の感慨をしみじみと述べた。
映画『ブラインド・マッサージ』
アップリンク渋谷、新宿K's cinemaほか全国順次公開
南京のマッサージ院。ここでは多くの盲人が働いている。幼い頃に交通事故で視力を失い、「いつか回復する」と言われ続けた若手のシャオマー、結婚を夢見て見合いを繰り返す院長のシャー、客から「美人すぎる」と評判の新人ドゥ・ホン。ある日、マッサージ院にシャーを頼って同級生のワンが恋人のコンと駆け落ち同然で転がり込んできたことで、それまでの平穏な日常が一転、マッサージ院に緊張が走る――。
監督:ロウ・イエ
脚本:マー・インリー
撮影:ツォン・ジエン
原作:ビー・フェイユイ著『ブラインド・マッサージ』(飯塚容訳/白水社刊)
編集:コン・ジンレイ、ジュー・リン
出演:ホアン・シュエン、チン・ハオ、グオ・シャオトン、メイ・ティンほか
配給・宣伝:アップリンク
2014年/中国、フランス/115分/中国語/カラー/1:1.85/DCP
原題:推拿
日本語字幕:樋口裕子
【新宿K's cinema】公開記念トークイベント
小説から映画化へ
ゲスト:飯塚容(中央大学文学部教授)、豊崎由美(ライター、書評家)
日時:2017年1月21日(土)10:30上映スタート 上映後トーク
会場:新宿K's cinema (東京都新宿区新宿3丁目35-13 3F)
ゲスト:飯塚容(中央大学文学部教授)、豊崎由美(ライター、書評家)
料金:一般:1,800円/大・高:1,500円/中・小・シニア:1,000円
ご予約:http://peatix.com/event/225353