ロンドンを拠点とする世界最大級の会計事務所「プライスウォーターハウスクーパース（PwC）」が6月8日、中国おける映画の興行収入の展望を発表。2017年には103億ドル（1兆977億円）となり、アメリカの101億ドル（1兆764億円）を抜いて世界最大規模となるだろう、と予測した。アメリカの「CNBC」や日本の「NewSphere」といったメディアがこれを報じた。
現在、ハリウッドにとって中国は最も重要な市場となっているが、中国には国内の映画産業を保護するために、自国内で製作された映画の上映に最低基準を設けるスクリーン・クォーター制度があり、外国映画の輸入本数を年間34本に制限している。この数は今後拡大するだろうという見方が強まっているのと同時に、スティーブン・スピルバーグ監督が率いる製作会社「ドリームワークス」が、中国資本と合弁で「オリエンタル・ドリームワークス」を設立し『カンフー・パンダ3』を米中合作として製作するなど、ハリウッドは中国企業と合同で映画を製作することで、この制限枠を回避しようとしている。
『ブロークバック・マウンテン』『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』などで知られ、ハリウッドで活躍する台湾出身のアン・リー監督が、出席した第19回上海国際映画祭で、活況を呈する中国映画市場と映画製作者に注意を促す発言をしたと「SCREENDAILY」が報道している。
リー監督は「市場が好調なので、誰もがせわしなく金を儲けようとしている。より早く成長したいという意識から、配給のアンバランスが生まれる。かつて香港や台湾は、誰もが同じ星を追い、同じような映画を作るようになってしまうという大きな失敗を犯した」と、急激な市場の成長に慌てるべきではないという持論を展開した。さらに、「もちろん、中国のほうが人口が多いのだから、中国市場はアメリカのボックスオフィスを越えることは間違いない。しかしアメリカには、より深い映画文化がある。ハリウッドは独自のシステムを既に持っていて、アメリカのポップ・カルチャーは、世界中の人々を感動させている。私たちは、子供の頃に自分の親から『もっと謙虚になりなさい』と言われたことを忘れてしまった」と警鐘を鳴らした。
ファイナンスの供給過剰とクリエイティブな才能の不足により、経験の浅い監督が大きな予算のプロジェクトを準備不足の状態で撮らなければいけない、という制作現場での問題について、アン・リー監督は「中国とアメリカは同じハードを持っているが、ソフトが違う。黄金時代の始まりであることは間違いないので、この機会を逃さず、良い循環を作ってほしい。市場は自然と大きくなるが、映画は文化だ。そこは辛抱しなくてはいけない」と述べた。
アン・リー監督の新作は、11月にアメリカとヨーロッパで上映が決定している『Billy Lynn’s Long Halftime Walk（原題）』。 米作家ベン・ファウンテンによる同名小説を原作に、イラク戦争に従軍した19歳の青年を描く物語で、製作にアメリカの製作会社「スタジオ8」、中国の配給・製作会社「ボナ・フィルム・グループ」、そしてイギリスのテレビ局「Film4」が参加している。「スタジオ8」は2014年、上海の投資会社「復星集団（フォースン・グループ）」から2億元（214億円）の出資を受けることを発表している。リー監督の続く次回作は、「スタジオ8」の製作による、先日亡くなったモハメド・アリとライバルのジョー・フレージャーが1975年にフィリピンで行ったタイトルマッチを描く3D作品『Thrilla in Manila（原題）』になると噂されている。
［写真：SCREENDAILYより］
【webDICE関連記事】
中国の青島が文字通りアジアのハリウッドに（2016/3/30）
http://www.webdice.jp/topics/detail/5084/
【SCREENDAILY】
Ang Lee warns Chinese filmmakers to slow down（2016/6/13）
http://www.screendaily.com/news/ang-lee-warns-chinese-filmmakers-to-slow-down/5104831.article
【CNBC】
China will be bigger for the box office than the US next year: PwC（2016/6/8）
http://www.cnbc.com/2016/06/08/china-will-be-bigger-for-the-box-office-than-the-us-next-year-pwc.html
【NewSphere】
“中国で公開できるように中国企業と組む”動き強めるハリウッド、それを利用する中国政府（2016/6/11）
http://newsphere.jp/world-report/20160611-2/
