ニューヨーク市で来週(4月13日)から開催されるトライベッカ映画祭での上映が中止になった反ワクチンのドキュメンタリー映画が、急遽4月1日からマンハッタンの映画館で公開され、連日満席の盛況ぶりが話題になっている。
アメリカでは先月、トライベッカ映画祭でこの映画が上映されることが発表されると、ロサンゼルス・タイムズなど有力紙をはじめとするマスコミや医療関係者らが「科学的な信憑性が低い」と映画を扱き下ろし、これを上映しようとしているトライベッカ映画祭も批判の嵐にさらされた。
これに対し、トライベッカ映画祭の創設者の一人である俳優のロバート・デ・ニーロは最初、この映画を擁護する声明を出したが、その翌日には意見を翻して上映中止を発表した。
この映画『Vaxxed: From Cover-Up to Catastrophe』は、予防接種の危険性を米政府当局がいかに隠蔽したかを告発するドキュメンタリーで、当初、トライベッカ映画祭でプレミア上映後、6月に劇場公開される予定だった。
しかし、トライベッカでの上映中止が決まった後、配給会社はすぐに劇場公開にふみきり、マンハッタンのアンジェリカ・フィルム・センター1館で4月初週の週末3日間で興行収入 $28,339(約310万円)という好成績を記録した。
『Vaxxed』は、2004年にMMRワクチン(はしか、おたふく風邪、風疹の新三種混合ワクチン)と自閉症の関連を示す調査結果を公表しようとして、アメリカ疾病対策予防センター(CDC)にそれをもみ消されたCDC職員の内部告発を追う。
webDICE編集部では本編を製作サイドから取り寄せ観てみた。映画は、自閉症の子供を持つ親たちや医療関係者の証言を交えながらCDCの腐敗を暴き、この内部告発をアメリカのテレビ局が一切取り上げないのは製薬会社がスポンサーであるためで、いくら議員が内部告発者を連邦議会で証言させるよう議長に求めても、製薬会社のロビーイングでそれが実現しないことを示唆している。
本作の監督であるイギリス人のアンドリュー・ウェイクフィールドは、1998年にMMRワクチンが自閉症の原因になる可能性を示す論文を発表した元医師。彼の研究論文がきっかけで予防接種率が下がり、2015年のアメリカでのはしか流行などにつながったと言われている。彼は2010年に、98年の論文に捏造があったとして医師免許取り消された。映画にはウェイクフィールド自身も登場し、論文発表から医師免許取り消しまでの間に何があったのかを語っている。
デ・ニーロと妻グレース・ハイタワーの間には、18歳になる自閉症の息子がいる。そのため、デニーロは3月25日に次のような本作を擁護する声明を出した。
「自閉症の要因をめぐる問題はすべて、公平な議論と検証がされるべきだと思います。トライベッカ映画祭を作ってから過去15年間、私は一度もプログラムについて口を挟んだことはありません。しかしながら、これは私と家族にとって自分事であり、議論の場を作りたいので『Vaxxed』を上映します」──ロバート・デ・ニーロ(トライベッカ映画祭公式フェイスブックより)
ところが、翌3月26日に、デニーロは意見を翻して次のような声明を発表、上映を中止するとした。
「私の意図は、自分と家族にとって非常にパーソナルな問題について議論する機会を、この映画の上映によって作ることでした。しかし、トライベッカ映画祭チームと科学界の人たちと一緒に再検討して、この映画は私が望んだような議論の進展に貢献しないという結論に至りました」──ロバート・デ・ニーロ(トライベッカ映画祭公式フェイスブックより)
映画祭が上映中止を決めたことについて『Vaxxed』の製作者は、「利権がらみの企業による検閲の一例であり、表現の自由の侵害だ」と言い、映画祭スポンサー企業の圧力があった可能性を示唆した。しかし、映画祭での上映はなくなったものの、メディアでの一連の報道が宣伝効果となり、公開初週は大入りの結果となった。
近年、日本で大きな社会問題となったワクチンの副作用の事例としては、2013年4月に定期接種(任意接種と違い、全額公費負担の接種)となった子宮頸がんワクチンが、重篤な健康被害の報告が相次いただため、わずか2ヵ月後の2013年6月に厚生省が積極的勧奨を中断した。