Shing02が新曲「日本国憲法」の無料配信を5月7日0時より特設サイトで開始した。
集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しについて様々な議論を呼ぶなか発表されたこの曲は、日本国憲法と、その第13条にある一節「生命、自由及び、幸福追求の権利」がどのような過程を経て生まれたかを、[序章] [植民地主義] [明治維新～大日本帝国憲法] [第一次世界～大戦太平洋戦争] [日本国憲法] [現代]という全6章、22分22秒にわたり描く作品。特設サイトでは楽曲のフリーダウンロードができるとともに、歌詞も掲載されている。
憲法の歴史を13世紀初めのイギリスでのマグナ・カルタ制定まで遡り、2014年の安倍政権による閣議決定に至るまでをストーリーにした今作制作の経緯について、Shing02は次のようなコメントをwebDICEに寄せてくれた。
このプロジェクトを取り組むことになったのは、1年前に行われた横浜トリエンナーレのイベント「Temporary Foundation『横浜トライアル』」に誘われたのがきっかけでした。「日本国憲法をラップする」というテーマで、Kuranaka aka 1945とのパフォーマンスを8月15日の終戦記念日に合わせて行いました。このイベントの構成を担当した高橋悟さん（京都都市立芸術大学教授）に日本国憲法と大日本帝国憲法が合わさった本を頂きました。
高橋さんは、僕が鎌仲ひとみさんの映画『ミツバチの羽音と地球の回転』で歌った「隼」を劇中で聞いて知ったそうです。もちろんそれまでは自分もあやふやで断片的な知識しかありませんでした。
ただ9条が素晴らしいとか、メッセージが良くてもその根拠が言えなかったり、歴史的背景なくして、9条は憲法の条文なのか、単なる精神なのか、世界に対する色んな意味でのジェスチャーだったのか、着眼点が変われば、議論が食い違ってきます（何に関してもそうだと思いますが）。
そこから自分なりに調べて行ったのですが、やはり一番の問題は、自分も含めて戦後に生まれた日本人は（あるいは戦後の日本の義務教育を受けた人は）事象としての歴史を良く知っているのですが、流れとしてあまり捉えてないし、戦争に関しても、短絡的に日本を「加害者・被害者」としての捉え方ばかりで、そもそも何のモチベーションがあって戦争に行ったのかなど、とても曖昧にしているところがある。それに焦点をあてた作品や証言も山ほどあるのに、今の人たちの間で説明出来る人が少な過ぎる。
国際的な流れの中で日本がどういう位置を占めているのかも、経済的なやり取り以外は、あまり分かっていない。戦争を美化したり、完全否定したりの極論ではなく、若い人でも、明治から昭和にかけて何があったのかを「自分の視点で」語れるようにならないと、今の憲法改正に関する議論もあまり発展しないのではと思います。
実際に、戦後から何十年も経って当事者が話すようになって、分かったことも沢山あります。そう言った本も、なかなか和訳されて日本にも入って来なかったり、日本人の認識がアップデートされてないところもあるのではないでしょうか。
1年にわたり準備を進めたという今作の特設サイトのスペシャル・サンクス欄には、ハワイ州立図書館やNHKなどが掲載されているが、ヨハネス・ジーメス「Hermann Roesler and the making of the Meiji State」（Sophia University, 1968）、キョウコ・イノウエ「MacArthur’s Japanese Constitution : A Linguistic and Cultural Study of its Making」（University of Chicago Press, 1991）、モニカ・ブラウ「The Atomic Bomb Suppressed : American Censorship in Occupied Japan」（M. E. Sharpe, Inc., 1991）といった文献が制作の際の助けになったという。
また、NHKがクレジットされているのは、「ちょっとしたギャグでもあるんですが」（Shing02）、ビートの音源にNHKクリエイティブ・ライブラリーのフリー音源を使用しているから、とのことだ。
なお、彼が音楽を手がけた鎌仲ひとみ監督の映画『小さき声のカノン―選択する人々』は、現在渋谷アップリンクほか全国公開中。
Shing02「日本国憲法」特設サイト
http://e22.com/kenpo/
【関連記事】
5人の警官が突如ダンスフロアで踊る!!Shing02監督による短編映画『Bustin'』公開（2014-04-17）
http://www.webdice.jp/dice/detail/4173/
映画『小さき声のカノン―選択する人々』
渋谷アップリンク、横浜シネマ・ジャック＆ベティ、仙台フォーラムにて上映中、
ほか全国順次公開
監督：鎌仲ひとみ
プロデューサー：小泉修吉
音楽：Shing02
製作・配給：ぶんぶんフィルムズ
2014年／カラー／デジタル／119分
