11月30日まで開催されている第15回東京フィルメックスの授賞式が11月29日、東京・有楽町朝日ホールで行われ、フィリピンのフランシス・セイビヤー・パション監督『クロコダイル』がコンペティション部門の「最優秀作品賞」に選ばれた。『クロコダイル』は、フィリピンで実際に起きた事件をもとに、ワニに娘を奪われた母親を軸にした、フィリピンの湿地帯に生きる人々の物語。俯瞰ショットを随所に用い、フィクションのパートと当事者の映像を交錯させながら、神話的要素も加え描き出している。
審査員長のジャ・ジャンクー監督をはじめとする審査員団は、『クロコダイル』の受賞理由について「誠実な人間性を携えながら、この作品は時を超越した場所へ私たちを誘い、そこで私たちは心温かい人々の生活に遭遇します。監督の直観的かつ観察力に優れたスキルにより、私たちはスピリチュアルな旅を体験し、このような固有な世界があることに気づかされます。この作品の強さは、実直で一貫性をもった監督のスタイルと、キャストの生き生きとした表現力にあります」と発表している。
「審査員特別賞」と、東京学生映画祭が審査員の選任から賞の決定までを運営する「学生審査員賞」には、イスラエルのアサフ・コルマン監督の『彼女のそばで』が受賞。主演の女優、リロン・ベン・シュルシュの実体験をベースに、障がいを持つ妹と彼女ともに暮らす姉の抜き差しならない関係と心の動きが、細やかな演出により描写されている。母親と同居する姉の恋人とのやりとりなど、随所にイスラエルの貧困層の暮らしぶりがうかがえる点も興味深い。
『彼女のそばで』について審査員は授賞理由を「この力強く感動的な作品には、初監督作品であるにも関わらず、監督の熟練味溢れる行きとどいた演出力を感じます。特に全編に亘って保たれた"適切な距離感"に、その素晴らしい手腕が発揮され、親密な姉妹の間に見られる興味深い関係を見せてくれます」と評した。
『彼女のそばで』は、清水俊平さん(東京藝術大学大学院映像研究科)、大河原恵さん(多摩美術大学)、千葉花桜里さん(日本大学)の3人からなる学生審査員からも「ハンディによる姉妹の強烈なクロースアップと突き放すような俯瞰のロングショットは、互いに献身し合うようにして二人の息苦しいまでに愛おしい距離感を描き出し、両者のかけがえのない関係性を見事に炙り出していたといえる。姉妹の繊細で言葉に出来ない瞬間を切り取るそのフレームは、観る者の身体にダイレクトに向かい、今作品における世界を疑う時間は一瞬たりともない。作家の誠実な眼差しによって見つめられる姉妹の体温に、ずっと寄り添っていたいとさえ思えた」という受賞理由とともに絶賛された。
さらに、審査員のスペシャルメンションとして、一人っ子政策が敷かれる中国の村で子供を身ごもったカップルに訪れる運命を不穏なムードを持って描いた『シャドウデイズ』が選出。これまで日本でも「中国インディペンデント映画祭」で『ゴーストタウン』『歓楽のポエム』といった作品が上映されてきたダーヨン監督には、「審査員は、監督が映画と社会との緊密な関係を描くことに全力を傾けていることに深く感銘を受けました」という受賞理由が寄せられた。
そして、来場した観客の投票によって選ばれる「観客賞」には、特別招待作品からイランのモフセン・マフマルバフ監督がグルジアで撮影した最新作『プレジデント』が輝いた。今作はシンカ配給により2015年劇場公開が予定されている。
[写真:最優秀賞の『クロコダイル』]
■東京フィルメックス公式HP
http://filmex.net/2014/compe.html
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