9月下旬に“BETTER OUT THAN IN / OCTOBER 2013”という予告めいたグラフィティを発表し、10月1日からニューヨーク市内各所に出没しては毎日“作品”を制作しているバンクシー。
10月27日にオフィシャルサイトにアップされた“作品”は、ニューヨーク・タイムズ紙の記事を模した、来年竣工予定の新世界貿易センター(ワン・ワールド・トレード・センター)を批判する文章だ。
「今日の作品は、ニューヨーク・タイムズのオプエド(op-ed=外部意見を掲載する欄)になる予定だった。しかし採用してもらえなかった。以下がその内容…」という説明の下に、ニューヨーク・タイムズの紙面をなぞらえてバンクシーが書いたテキストが貼ってある。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、まったく同じではないがこれに近い文章がバンクシーから投稿されたが、社内で検討の末、却下したという。
去る16日に記者会見で、10月に入ってからのバンクシーのNYでの活動について「ゲリラアートは違法である」と発言したニューヨークのブルームバーグ市長に、バンクシーが反撃に出たかたちだ。
【以下、全文訳】
ニューヨークでもっとも目障りなのはグラフィティではなく、
グラウンドゼロに建設中のビル
“シャイスクレイパー”
ここ数週間ニューヨークに滞在している旅行者として、ひとつはっきりしたことがある。この街の味方として言わせてもらう──新しい世界貿易センターを何とかしようぜ。
あのビルは最悪だ。否。最悪なら面白い。ワン・ワールド・トレード・センターには面白味のかけらもない。まるでカナダに建っているような、ありきたりのビルだ。
9月11日のテロはわれわれ全員に対する攻撃であり、今後もわれわれはその脅威におびえて生きていくだろう。だが、その困難にどう向き合っていくかということも重要だ。そして、どんな向き合い方をしたか?
104階建てにすることで妥協?
ケタはずれに高い建物なのに、ワン・ワールド・トレード・センターには自信というものが欠如している。気骨もなくどうやって起立していられるのか? そもそも建てられたくなかったようにすら見えてしまう。
パーティで背の高い男子が、なるべく目立たないように気まずそうにしている姿を思い起こさせる。恥ずかしがり屋な高層ビル(シャイスクレイパー)なんて初めて見た。
ワン・ワールド・トレード・センターは、9月11日に命を落とした人々に対する裏切りだと容易に考えられる。なぜなら、あまりに明確にテロリスト側の勝利を示しているからだ。10人のハイジャック犯たちが攻撃した世界よりも、さらに冴えない凡庸な世界をわれわれは創ろうとしている。新しい魅力的な世界を創るには至らずに。
誰もニューヨークに礼儀正しさや常識など求めていない。ニューヨークに惹かれるのは、この街に勇ましいスピリットがあるからだ。それがワン・ワールド・トレード・センターには全くない。あのビルの代わりに目を向けるべきは、この街の建物の屋根だ。危険と隣り合わせでローラーペイントされた名前やスローガンが、建物の輪郭をツタのように這っている。
これこそがニューヨークの真なる文化遺産だ。勇敢な者たちに場所を与えることで、この街は名を馳せてきた。
ワン・ワールド・トレード・センターは、「ニューヨークの栄光の日々は終わった」と宣言しているようなものだ。今すぐにでも、このビルの正面に、もっとましなビルを建てる必要がある。あるいは、より良い方法は、ペイントローラーを持ったキッズたちに仕上げを任せることだ。なぜなら、今、建設中なのは、“ニューヨークは、おじけづいちまった”と書かれた1000フィートの高さの看板も同然だから。