高城剛氏が毎週金曜日に発行している自身の有料メールマガジン「高城未来研究所」1月6日発行号にて、昨年末報道された大沢伸一氏の逮捕、そして日本のクラブ/ダンスミュージック・シーンと風営法の関係について言及している。
この号はパブリック・ドメイン=著作権フリーとなっているので、該当記事を転載する。
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▼▽Q.7▼▽
高城さんは現在の日本のクラブと風営法についてどういった考えをお持ちでしょうか。風営法によるクラブの取締は今に始まったことではありませんがここ最近、京都の世界WORLDを始め関西圏のクラブが軒並み取締りを受け一時期深夜営業している箱が皆無になるなど異常な事態が続いています。さらに昨日は国内No.1DJである大沢伸一が経営する会社の部下に枕営業を強要して逮捕されたと報道されましたが、逮捕されたのは14日で証拠不十分なまま既に釈放されているにも関わらず年末年始に突然読売新聞の記事で報道されYahoo!のトップにまで取り上げられてしまいました。事実はどうか知りませんが氏のブッキングが集中している年末年始に突然報道されるあたり何か悪意を感じるのですが、裏でクラブをつぶそうとしている大きな力が動いているような気がしてなりません。クラブが風営法の関係で深夜営業出来ないのはタイを始め世界的に珍しいことではありませんが、高城さんの見解をお聞かせください。
【 A 】
大沢君の件に関して言えば、大なり小なりいつかこのような事になる気がしていました。また、個人的に何年も前から移住の相談を受け「ヨーロッパに仕事の基点を早めに移したほうがいい。そのため出来る事はなんでも手伝うから」と、本人に直接話していました。その後の彼からのメールを拝読する限り、たぶんその気も50%ぐらいはあったと思いますが、辞められなかったことがふたつあると個人的に思っています。
ひとつは、「ライフスタイルを変える」と言う事、もうひとつは「しがらみを断ち切る事」です。日本のトップDJでも、ヨーロッパに行けばただのDJで、きっと収入はいまのようにいかないでしょう。一人で移るのは精神的に厳しいかもしれませんが、でも、年齢的にもズルズルしてはいけないし、僕は「君は本当にいいトラックメーカーだから、しがらみを切って数年かけて本気で勝負すべきだ」と何度も話しましたが結果ダメだったと思います。そしてもうひとつ、しがらみです。
彼が、企業舎弟同然の人たちとガッチリ仕事をしていたのは明白で(そしてそれを公的に指摘する人は皆無で)、また、そこへの無自覚な過度な営業が多少なりあったのも、僕がその場を実際に見る限りそれなりの事実だと思います。
その一環がこの逮捕につながっているのかは、わかりませんし、女性側に問題がなかったのかもわかりませんし、さらには実は別の問題なのかもしれません。しかし、彼の本来の人間性とは別の、日本の音楽業界(ほぼ芸能界)で生きていく上での当たり前のルールに従っていたことは確かだと思いますし、それが今回の逮捕と無関係とは思えません。
もうひとつのしがらみは、このような事件が表立った後に「大沢さん、がんばって!」などという人たちです。本当の友人であれば「事実はどうあれ、一旦活動を自重したほうがいい。いまこそ、スタジオに籠っていいトラックを作るべきだ」と話すでしょう。
そうしなければ、その後に共に活動をした人や場所は、同じ目で見られる事になってしまうから、風当たりが厳しいクラブ業界の現状を考えて本来自ら一度自重すべき時だったと思います。
これは、実際事件がどうであったかとは別の、不本意でも現実的で適切な対処です。それは、問題がゴシップやただの噂ではないからです。よかったことは、公表になったのが、週刊誌の年末進行のあとだったことです。もし、もう一週間早く公表されていたら、もっと大騒ぎになったでしょう。ですので、少しの間だけ静かにすべきだったと思います。
しかし、多くの人は安易に励まし、早々に表に出てきてしまいました。事実と事態は違うのです。
これで、クラブはあまりにコンプライアンスを持たない業界だと対外的には思われてしまうのも同然で、今年以降、もっと世間の風当たりが強くなると思います。これから、もっと問題や事件は増えるでしょう。
思い起こせば、6年ほど前に東京でクラブ営業への風当たりが強くなった当時、僕は都庁のそれなりの高官を連れて、渋谷の世界的に有名なクラブに行ったことがあります。少しでもクラブというものを役所に理解してもらおうと個人的に便宜を図ったのですが(かつての風営法が時代にあってないことは、役所もわかっている)、その渋谷のクラブでドアマンがあまりに横柄で、役人の人たちは「これではサービス業とは言えない」と怒ってしまったことがあります。これ以降、実際にクラブへの風当たりは増々強くなり、そしてその流れは全国に伝搬し、しかし僕も口を出す事はもうしませんでした。
今日の状況は、クラブやダンスミュージックを仕事とするすべての人の無自覚から来ていると思います。風営法を変えると言う事は、社会を変えると言う事です。部活動のルールを変えるのとはワケが違います。
しかし、そのような社会改革のための意識を本気で持っている人は、クラブやダンスミュージックを仕事する人にはほとんどいません。仲間意識やつながり、閉鎖的な一体感や音楽を美化することばかり話し、結果自らクラブ業界をつぶしているようにしか見えません。アテネ・オリンピックの閉会式がDJティエストで、今度のロンドン・オリンピックの開会式がアンダーワールドです。DJに文化価値が充分にあることは、ちゃんと話せば役所もわかります。
ヨーロッパでダンスミュージック産業は、日本の100倍以上あります。
役人も頭が固い人ばかりではないので、ダンスミュージックが日本の大きな産業となれば、むしろ力を貸すでしょう。良いか悪いかはさておき、きっと、レコード大賞でもダンスミュージック部門が出来るでしょう。
ですので、いま考えすべきことは、現状のクラブを美化することではありません。僕は聖人君子を語る気は毛頭ありませんが(むしろ逆なのでよく理解しています)、この状況は90年代初頭のニューヨークに似ています。ダンスシーンの中心が、なぜニューヨークやシカゴからロンドンやイビサに移ったのかは、歴史の教えです。原発と同じように、なんとなくわかっていたけど容認してきた問題が浮上してきたのです。各々が自覚を持って、産業として確立させるためにはどうすべきか、真剣に考えねば、日本のクラブは潰えると思いますし、この年末の事件、そしてそれを取り巻く人たちの安易な行動を見ていると、先は暗いと残念ながら感じます。
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■高城未来研究所
http://www.takashiro.com/future/