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cinema

2008-12-01 12:55


東京FILMEX最優秀作品賞『バシールとワルツを』

東京FILMEX最優秀作品賞『バシールとワルツを』

東京FILEMEXの最優秀作品賞他が発表されました。
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「バシールとワルツを」(監督:アリ・フォルマン)
(Waltz with Bashir/イスラエル、フランス、ドイツ/2008年)
副賞として賞金100万円が監督に授与されます。
【受賞理由】
新しい映像言語を発明しつつ観客に強烈なインパクトを触発する、この大変重要な映画作品に最優秀作品賞を授賞します。特に感心をしたのは、幻想的なヴィジョンを史実と交差させる知性と、語りの手法としての音楽の使い方でした。

「木のない山」(監督:ソヨン・キム)
(Treeless Mountain/韓国、アメリカ/2008年)
副賞としてコダック株式会社より4,000米ドル相当の生フィルムが監督に授与されます。
【受賞理由】
この作品は愛情にあふれています。二人の子どももすばらしい。最後にはおばあちゃんの手助けをするまで成長してゆく姿に感動しました。

「サバイバル・ソング」(監督:ユー・グァンイー)
(Survival Song 小李子/中国/2008年)
副賞としてコダック株式会社より4,000米ドル相当の生フィルムが監督に授与されます。
【受賞理由】
これは中国地方部の貧しい人々についてのドキュメンタリーであるだけではありません。ここには、人間のもつあらゆる感情の真実の顔が見えます……憎しみ、喜び、葛藤、希望。映画を観ながら、私たち観客は自分のことを考えさせられました。人間に対する監督の温かなまなざしを感じます。
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第9回東京フィルメックス・コンペティション審査員:
野上照代(審査委員長/日本/元黒澤プロ プロダクション・マネージャー)、ソン・イルゴン(韓国/映画監督)、イザベル・レニエ(フランス/ジャーナリスト、映画評論家)、レオン・カーファイ(香港/俳優)、レオン・カーコフ(ブラジル/サンパウロ映画祭代表)

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今年の東京FILMEXは3本を観ました。『ノン子36歳(家事手伝い)』『サイバイバル・ソング』『バシールとワルツ』です。
諏訪敦彦監督が「日本の監督もフランスの監督も映画という美ばかりを追求して社会と係わろうとしていない」と日仏会館で行われたサンドリーヌ・ボネール監督の『彼女の名はサビーヌ』の上映後のトークで発言していました。
そういう視点で今回観た3作品の簡単な感想です。

熊切監督の『ノン子36歳(家事手伝い)』は絵に描いたような田舎の夏祭りを舞台に元彼とヒヨコ売りの年下の男が登場します。田舎の風景は美しく郷愁を誘いますが、登場人物に共感できるかというと出演後のトークで出演者も自ら語るように「ちょっとバカな人たちの物語」だけです。この映画から日本の現在が透けて見えるのですが、それが日本だと言えば悲しいけどそれまでです。

ユー・グァンイー監督の『サバイバル・ソング』は観察映画という作品で、中国の山奥のダムに沈む村の猟師を追いかけた作品です。ワナをつくるためのワイヤーを街に出て買い、ワナを仕掛け、猪を捕る、そしてそれを解体し、鍋で食べるという猟師の行為が描かれていきます。FILEMXでは数少ないドキュメンタリー作品で、猟師の人としての営みを淡々と描いています。北京、上海と報道される中国の経済的躍進とは全く別のもう一つの取り残された中国を描いています。中国では、小川紳介監督作品に影響を受けた監督が多いと聞きますが、グァンイー監督も影響を受けているように思いました。

最優秀作品賞を受賞した『バシールとワルツを』のアリ・フォルマン監督は、以前アップリンクで配給した『セイント・クララ』で共同監督を務めていました。超能力少女の物語でいわばイスラエル版『キャリー』のような作品でした。今回受賞した作品は19歳だった監督がレバノンに派兵され、その戦場で起こった記憶を失い、20年経った現在、失われた記憶を探すために当時の兵隊を訪ねていくというものです。

当時の兵隊にインタビューされた記録は、通常のドキュメンタリーならバストショットのインタビュー映像ですが、この作品ではインタビューで語られた事をアニメーションという手法で映像化しています。現在の監督自身も精神カウンセラーにかかっているというエピソードも盛り込まれています。それぞれのインタビューを通して監督自身が取り戻した記憶は、サブラとシャティーラのパレスチナ難民キャンプでの虐殺でした。イスラエル軍も自分自身も虐殺の当事者としては関わっておらず、虐殺をしたのは一部のキリスト教系民兵(ファランジスト党)であり、監督はそのキャンプを訪れた事を思い出します。映画の最後の5分間はアニメーションではなく虐殺されたパレスチナ人の死体が映されます。映画の手法としては完成度が高く引き込まれました。

先日コペンハーゲンで行われたドキュメンタリー映画祭で実は観たのですが、その時は、ヘブライ語にデンマーク語字幕という理解できない状況でした。フォルマン監督は会場には来ておらず、上映前にデンマークのイスラエル大使が舞台に立ち15分の挨拶を行いました。イスラエルも自国のネガティブな歴史をこのように映画として作る事ができる自由で民主的な国家であるというようなことを演説していました。

映画はあくまで当時19歳だったイスラエル兵の視点から描かれた個人的な体験で、虐殺されたパレスチナ人のことは一切描かれていません。19歳の少年にとっては記憶を無くすぐらいの衝撃だったかも知れませんが、目の前で子供と夫を殺された母親の衝撃とは比べ物にならないものでしょう。映画の手法は斬新ですが、その内容は歴史的虐殺を扱った作品にしては、あまりにもナイーブすぎるように思いました。

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