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日程2013年08月06日 ~ 2013年09月03日
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時間11:00
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会場LeTabou
LeTabouでは2013年8月1日(木)~ 9月3日(火)の期間、
美術展示-シリーズ「呪術」à Le Tabou vol.2 椋本真理子-を開催しております。
第二回目となる本展では、1988年生まれの気鋭のアーティスト、椋本真理子を紹介いたします。
それにともない2013年8月28日に関連イベント「触れる音、聴こえる形」を開催します。
このたびLe Tabouでは、シリーズ企画展「呪術」を開催いたします。
シリーズ第二回目となる本展では、1988年生まれの気鋭のアーティスト、椋本真理子を紹介いたします。
今年3月に大学院の彫刻コースを修了した椋本の作品は、一見してミニマリスティックなオブジェを装いながら、見立て的に「山」「プール」「ダム」などといった明け透けなモチーフを提示する手法で知られています。
近年では、アートイベントやギャラリーでの展示のみならず、理化学研究所や相模湖交流センターといった公共スペースでの展示、「巨大人工物入門」と題したユニークなイベントの開催など、その活動の幅を広げつつあります。
今年4月には、東京を代表するアーティスト・ラン・スペース、22:00画廊で開催された個展にて、まさしく「巨大人工物」というべき新作を発表し話題になるなど、その動向にますます注目が集まっている期待すべき若手作家です。
「呪術」と題した本企画では、新作一点と旧作二点によるインスタレーション展示を行ないます。
椋本の新しい展開を、ぜひこの機会にご高覧いただけましたら幸いです。
「呪術」によせて -原田裕規(企画者)
ジャンルを問わず、どんな作品にも作者は存在します。
私は、作品を本当に理解するためには、作品と作者との関係性において作品を見るべきであるという、この当たり前の前提に疑問を投げかけることから始めたいと思います。
そのために、まずは古代ギリシア・ローマ時代に作られた美術作品について見ていきましょう。
それらは、時の流れの中で作者にかんする情報を失いながらも、作品自体が人々を魅了し尊重されることで、現在まで遺されてきました。 世界各地に遺された古い時代の作品と作者の関係には、概ねこれと似た構図が指摘できるでしょう。
ためしに、こんな想像をしてみてください。
ルーブル美術館や大英博物館など、古い時代の美術を数多く収蔵する美術館や博物館の展示室に、あなたがたった一人で残されたとします。あたりには一面、古代彫刻や聖像が静かに立ち並んでいる、しんとした静寂の中で誰もが感じるであろう不安――「古代彫刻がひとりでに動き出す」というありがちな怪談話に通じる、あの感覚。 いったいあれは何に由来するのでしょうか?
先ほど述べたような古代作品と作者をめぐる宿命を、ひとことで「作者の不在」とするならば、正教会のイコン画もそれと似た存在であるといえます。 作品が人の手によって描かれている以上、原則としてそこには生身の作者が存在します。しかし、正教会のイコン画の場合は、ほかとは作者の扱いが異なってくるのです。
第一に、イコン画家は作品に自身の名前を入れることはありません。 たとえその名前を描き入れる場合であっても、「~の手によって」(ディア・ヘイロス)などと、わざわざ回りくどい言葉を付けていました。 なぜなら、イコン画家は神の栄光のため、聖なる恩寵によって手を動かされる存在なのであって、けっして自身の栄光のために手を動かしてはならないと考えられていたからです。
つまり、厳密な意味でのイコン画の作者は聖なる存在=神であり、画家は作品の作者ではなく、神によって「手を動かされる存在」にすぎないと考えられていたのです。 そのとき、イコン画には生身の身体を持った作者は存在しません(=「作者の不在」)。 だからこそ、その作品は一個人の生を超えた聖なる作品=呪物になると考えられ、人々から尊重されたのです。 反対に、「作者の不在」が人々から忌み嫌われる方向に働いた例もあります。 それは、いわゆる「神の死」以後の時代に出現した心霊写真です。 人々が心霊写真を怖れたわけは様々にありますが、私は、そこに恐ろしい像が写り込んでいるからなどといった図像的恐怖に先んじて、ここで見てきたような作者をめぐる問題が大きな役割を果たしていると見ています。 たとえば、私たちがある心霊写真を「偽物」であるとする場合、その写真の作者を特定することが最もてっとりばやい手段でしょう。 1873年末、フランス初の職業的心霊写真家として活動を開始したエドゥアール・I・ビュゲという人物がいました。 彼が世に出す心霊写真が超常現象による本物なのか、はたまたビュゲの作為による偽物であるかには、早くから疑惑の目が向けられていましたが、その決着は1875年につくことになります。 この年の4月、ビュゲは警官によるおとり捜査を受けて詐欺容疑の現行犯で逮捕されますが、裁判でビュゲ本人が心霊写真のトリックである多重露光について説明を行なったのです。
このことにより、彼はその心霊写真の作者であることが認められ、同時に、その心霊写真は偽物であることが証明されました。 この事件を見ればわかる通り、原則として、「本物」の心霊写真は人の手による「作品」であってはなりません。 「本物」の心霊写真は人智を超えた存在=心霊による成果物なのであって、「本物」の心霊写真撮影者はその作者ではなく、あくまで(イコン画における)「手を動かされる存在」にすぎないのだといえます。
だからこそ、心霊写真は単なる写真を超えた呪物となり、人々から怖れられました。 こうした畏怖の念は、イコン画においても心霊写真においても「作者の不在」によって準備され、生身の身体を持たない「聖なる存在」を呼び寄せることで生起することがわかりました。 そして、この現象はけっして、イコン画や心霊写真だけに留まらず、たとえば古代の作品のように、時の流れの中で作者名が失われていった美術作品にも起きうることなのです。
先ほどイメージしていただいた、美術館の展示室にたった一人で残されたときのことを思い出してみてください。 そのときに人が感じる不安は、あなたを取り囲む作品の作者情報が不明であること、言いかえれば、作者のパーソナルな顔がイメージできないこと(=「作者の不在」)に由来していたのです。
ところで、これまでにこんな言い回しをお聞きになられたことはありませんか?
「本当に優れた作品は作家の手を離れて一人歩きする」
「作家が死ぬことによって作品は完成する」
「真の評価は作家の死後に与えられる」
現在を生きる作家について、ほうぼうで繰り返されるこうした言い回しは、すべて「作者の不在」へと結び付きます。 たとえ作者が情報として後世に残り続けたとしても、身体的に、生物的に、作者が死ぬということは、「作者の不在」へと向かう第一歩にちがいありません。
そして、ここで想定されている「優れた作品」や「完成した作品」とは、「作者の不在」によって準備され、「聖なる存在」を呼び寄せることで出現する呪物を指しているのです。 私はつねづね、こうした大きな時間の流れの中でこそ、美術作品は見られるべきだと考えてきました。
たしかに作品と作者は切り離せない存在であるし、作者を知ることで作品への理解がいっそう深まることも事実ですが、本当に優れている作品とは、作者の名前を失い、一切の文脈から切り離されてもなお、鑑賞に耐え続けてきたことは歴史が証明しています。
こうした考え方は、「いい作品はいい」という危険なトートロジーへと結びつく可能性もはらんでいますが、私が言いたいのは、作品をめぐる価値判断において、その作品が物質であるがために背負わざるをえない孤独な運命に目を合わせることで、「作者」にはけっして介入できない価値の創造へと参画することができるのではないかということです。 そして、その創造が実現したとき、作品は呪物となり、美術は呪術となるのです。
椋本真理子 むくもと・まりこ
1988年、神奈川県生まれ。アーティスト。
2013年、武蔵野美術大学造形研究科美術専攻彫刻コース修了
主な展示として、「武蔵野美術大学大学院彫刻コース展示『視差をしくむ』」(2012)、「武蔵野美術大学卒業・修了制作展」(2013)、「植田工+島田真悠子+水尻自子+椋本真理子 グループ展」(RISE GYALLERY、2013)、「わたしのリゾート」(22:00画廊、2013)、「第二回ダムマニア展」(相模湖交流センター、2013)など。受賞に、「第46回神奈川県美術展 平面・立体部門 準大賞」(2010)、「2010年度武蔵野美術大学 卒業・修了制作展 彫刻学科優秀賞」(2011)。
http://marikomukumoto.com/
原田裕規 はらだ・ゆうき
11989年 山口県生まれ。美術家。
東京藝術大学大学院美術研究科修士課程先端芸術表現専攻在学中。
主な活動として、編著に『ラッセンとは何だったのか?』(フィルムアート社、2013年)、キュレーションに「ラッセン展」(CASHI、2012年)、「心霊写真展」(22:00画廊、2012年)、「呪術」シリーズ(Le Tabou、2012年~)、個展に「原田裕規展」(Art Space Hap、2007年)、論考に「アール・ローラン論」(2013年)、など。
http://haradayuki.tumblr.com/
美術展示 -シリーズ「呪術」à Le Tabou vol.2 椋本真理子-
会期: 2013年8月1日(木)~ 9月3日(火)
開場時間: 11:00 ~ 21:30
場所: LeTabou[地図を表示]
休業: 毎週水曜
観覧料: 無料
関連イベント -「触れる音、聴こえる形」-
展示作家の椋本真理子さん、企画者の原田裕規さんをお迎えしてのトークと合わせて、当店スタッフが椋本さんの作品からインスピレーションを受けて選んだディスクをご紹介いたします。
美術作品との素敵なコラボレーションをした店内にて、ムジーク(musikelectronic geithain)を使用した透明感あふれる音を堪能し、感覚に訴えることのできる時を是非お楽しみいただけたら幸いです。
日時: 2013年8月28日(水) 18:30開場 19:00開演
会場: Le Tabou店内
参加費: 無料
定員: 15名(要予約)
関連イベントのご予約について
関連イベント「触れる音、聴こえる形」へのご参加は予約制となります。
参加人数、参加者のお名前を全て記載の上info@letabou.jpまでメールにてご予約いただくか、
03-6206-4322までお電話で参加希望の旨をお伝え下さい。 定員に達し次第、募集は終了させていただきます。