少年合唱団を主役にしたドキュメンタリー作品は、DVDやビデオなどすでに数多く存在する。日本ではあまり目にすることがないが、海外ではテレビでも少年合唱団を紹介するドキュメンタリー番組はよく放映されている。これらの内容は主にふた通りに分けられる。演奏場面中心の音楽そのものに重きをおいた作品、そして合唱団の歴史や日常の生活などを紹介するもの、のふたつである。
『ヴォイス・オブ・エンジェルズ』は、そのどちらにも当てはまらない珍しい作品である。 一見、世界の少年合唱団を紹介する記録作品と思えるが、実際はドキュメンタリーという範疇を遥かに越えた、優れた映像ドラマという内容となっている。製作者が語るように「フィクション風ドキュメンタリー」であり「むしろ脚本のある映画」でもあるのだ。
元来のドキュメンタリー作品の「あるがままの実情を記録する」という姿勢ではなく、本作は「少年合唱の魅力をテーマに据えた、叙情性溢れる映像作品」に仕上げられている。ポェティックな画像、背景に流れる美しい音楽…どの場面も詩的で格調高い。冒頭から最後の場面までスタイリッシュで小粋。おしゃれなフランス映画のような印象を受ける。さりげなく合唱団の少年達の生活模様や、歌の練習場面なども折り込まれているが、記録された映像を追う、という堅さはどこにもない。
作品全体に「少年合唱の魅力を追う」というテーマがしっかりと貫かれているのが清々しい。この主軸が一貫してブレていない点が重要で、その結果少年合唱に詳しいファンも、少年合唱はあまり知らないというファンも、双方を満足させる効果を生んでいる。
本作に登場するのは、日本人にはお馴染みのオーストリアの「ウィーン少年合唱団」フランスの「パリ木の十字架少年合唱団」、そしてこれもまた世界的に有名なドイツの「ハノーヴァー少年合唱団」イギリスの「ウスター・キャセドラル少年聖歌隊」ポーランドの「ポズナニ少年 合唱団ポーランド」の五つである。国が変われば少年合唱の歌い方も味わいも変わる。これらの違いを比較する楽しみ、逆に特性は別でも各少年合唱に共通する美しさを発見するのもよかろう。
合唱の練習風景は、こうした作品には必ず登場するお馴染みのシーンだが、一部発声練習の様子が描かれているのは珍しい。少年達は練習時にいきなり歌いだすわけではなく、まずは身体をほぐし喉を開き、声を立ち上げるまで独自の方法で歌う準備をする。各合唱団ごとにそのやり方が違うのだが、こうした場面にはなかなか遭遇できない。貴重なシーンなのでお見逃しなく!
増山法恵(児童合唱評論家/小説家)
★DVD発売記念トーク付き上映会開催!
●10月6日(月)ゲスト:ひのまどか(音楽作家)
●10月20日(月)ゲスト:増山法恵(児童合唱団評論家/作家)、竹宮惠子(漫画家/京都精華大学教授)
両日とも開場19:00/開演19:30
会場:アップリンク・ファクトリー(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル2F)[地図を表示]
料金:1,500円(1ドリンク付)
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『ヴォイス・オブ・エンジェルズ』 アップリンクよりDVD発売中
監督:フィリップ・レイペンス
1998年/ベルギー/本編118分+特典映像
価格:3,990円(税込)
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