ビルマ(ミャンマー)の少数民族に対する弾圧の実態を、難民や反軍事政権勢力の兵士らへの現地取材をもとに構成したドキュメンタリー映画『ビルマ、パゴダの影で』 去る9月7日(土)、映画のDVD発売を記念しトークイベントを開催した。
トークゲストは、ビルマ難民出身でファッションデザイナーとして活躍中の渋谷ザニー氏。渋谷氏は1988年の弾圧を逃れ、8歳の時に来日した。小中高と日本の学校へ通ったが、難民として認められたのは高校2年生の時。大学を卒業し、現在ではフリーランサーのファッションデザイナーとして活躍している。
まず、この映画についての感想を伺った。
「このドキュメンタリー映画は現実を見せ付けられ、とても荷が重くなるような思いがしました。飛行機で5時間少し飛んだだけで、リアルな現実として存在する世界がこのアジアにある。それはアジアにとって、とても恐怖でもあるし、僕にしてみればそこが出生地であるわけですから、非常に重い内容でした」
また、映画の中で気になった点があったという。シャン民族の少年が「大人になったら兵隊になってビルマ人を殺すんだ」と語るシーンだ。
「市民層の中では少数民族とビルマ民族との間の民族間の隔たりですとか、各民族同士の生活格差というのは特別ありません。僕の祖父のまたその祖父はシャン民族で商人でした。少数民族だから貧困だということではなく、貧困を生み出しているサイクルはまた違うサイクルだと僕は考えます。事実ビルマ民族の貧困層も大変多く存在します。ビルマにおける少数民族の問題はあくまで軍事政権と少数民族間の問題であり、ルワンダでのツチ族、フツ族の民族紛争のような争いではありません。少数民族がそれぞれの州ごとに軍を持ち、それらを解除させる一貫として軍部は少数民族の農村を襲撃し、また略奪を繰り返すのです。子どもにしてみれば軍事などとは関係なく、“自分が大人になったら兵隊になって軍人を殺すんだ”ではなく、“ビルマ人を殺すんだ”という意識になってしまうのだと思います。ひとりの幼い子どもの、とても悲しい現実です」
民主化運動幹部だった渋谷氏の父親は、1988年の軍事クーデター後、弾圧を逃れ日本へ来た。その5年後に渋谷氏も母親と共に来日、彼が8歳の時だった。その後、難民として認められるまで6年かかったそうだが、難民であることに対しどう思っているのだろう。
「日本で1993年に家族三人で一緒に暮らせることになって、家族と安全な場所で暮らすということが僕たちにとっても最も重要なことでしたので、僕たちの望みは叶ったというような考えをしていました。しかし、そういうわけにも行かずその先に存在する様々な生活の困難を乗り越えてきました。1995年に父親が難民申請の手続きを始め、その後、2001年の僕が高校2年生の時に難民として認められたのです。在日インドシナ難民の子ども達と会ったことがありますが、彼らはみんな難民であることや、どこの出身だということで、恐らく日本社会に対しての劣等感を持っており、ネガティブな感情があるように感じられました。でも僕はそういうことをひとつも気にしたことがなくて、アルバイトで受け入れてもらえなかったという経験はありますが、ほかの日本人の友人だって苦労なしで今まで歩んできた方はいないですし、自分がどう差別されたとか、偏見をどうもたれたとかではなく、どうそれらを乗り越えるかが一番重要だと思っています」
昨年、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の小冊子に「ザニーさんの挑戦」というタイトルの記事が掲載された。渋谷氏はこの記事で初めて、自分が難民であるということを公表した。
「デザイナーとなった当初は、出身地がどこで難民であるかどうかが、僕の企画したものに関して、何かイメージが持つのではないかという不安がありました。これは僕の場合でなくても考えられることですが。そのため特別、自分が難民だとは言いませんでした。僕は自分の実力で、自分の個性で認めてもらいたいって気持ちが強かったので、特別には公表していなかったのです。ですが、1年前にミャンマー/ビルマで民主化デモがあって、僕と同世代の若い僧侶をみて、彼らは果たして宗教的な思想があって僧侶になっているのか。また、それらを弾圧している兵士も同様の同世代で、彼らも果たして政治的な思想を持って弾圧を行っているのかと疑問がありました。ひとつ考えられたのは、生活苦で僧侶になる選択をし、生活苦で軍隊に入り兵士になるという選択をしたのではないかということでした。とても寂しい思いを感じました。僕はまたそこで、自分に対し深い罪悪感を持ちました。自己満足だろうって言われるかもしれませんが、悲劇で孤独な国ミャンマー/ビルマというのが僕の出生地で、皆さんが着る服を作っているのは僕なんだ、というのを知ってもらいたかったのです。そのために公表を決意しました」
昨年のデモ弾圧の後、ビルマを襲ったサイクロンでもたくさんの悲劇があった。渋谷氏はひとりの力は微力だが、何かをしたいという思いから、仕事で交流のあるファッション業界の人々の協力を得てアパレルの店舗にUNHCRの募金箱を設置する活動を始めた。まずは、世界の現状や難民問題を多くの方に知ってもらうことが重要だ。
DVD『ビルマ、パゴダの影で』
観光用PR番組の撮影と偽りビルマ(ミャンマー)に潜入した撮影クルーは国境地帯へ少数民族の証言を求めて旅をする。そこには軍事政権による強制移住や強制労働、拷問や殺害を含む様々な人権侵害から逃れるため、幾千、幾万もの人々が過酷な生活を強いられていた。当局から許可無く撮影された本作は、今なお迫害され続ける人々の叫びを伝える貴重なドキュメンタリーである。
監督:アイリーヌ・マーティ
ULD-408|2004年|本編74分|カラー|16:9ビスタ|スイス|
英語、ビルマ語、カレン語、シャン語|ステレオ|片面一層
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★公式HP http://www.uplink.co.jp/burma/