骰子の眼

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2008-09-20 07:00


魔術と色彩の国モロッコ旅行の薦め

「モロッコには魔法が日常的にあるので精神的に弱い人は危ない事に近寄らないように」 『かわいいモロッコ 雑貨と暮らし』著者にむらじゅんこインタビュー
魔術と色彩の国モロッコ旅行の薦め

今夏『かわいいモロッコ 雑貨と暮らし』という本が出版された。書籍には、色を見ているだけでハッピーになれるカラフルなモロッコの「バブーシュ」や「ミントティー・グラス」から、地元の住民しか知らない小さなカフェやお店も紹介されている。それに、「モロッコ式メイク」や、「クスクスの作り方」まで載っていて、モロッコ気分が堪能できる内容だ。モロッコには通算30回ぐらい訪れたという著者による不思議で可愛い国、モロッコの雑貨とくらしの書籍です。
著者のにむらじゅんこさんは隔月刊時代の『骰子』の元スタッフで、パリや上海に住んだ経験から旅がキーワードとなる著作活動を行っています。今回の書籍は以前に出版した『手わざが光るモッロコ暮らし』に続いて2冊目のモッロコに関する本。
著者のにむらじゅんこさんにモロッコの不思議で魔術的な魅力について話を聞いてみました。


── モロッコに惹かれたきっかけは?

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パリに住んでいた時、北アフリカのアルジェリア人やモロッコ人が廻りにいっぱい住んでいるという環境に暮らしていました。「ハマム」と呼ばれるスチーム風呂(いわゆるトルコ風呂)もあり、そこにもよく行きました。フランスは、第一次世界大戦の時に外人部隊として大勢の北アフリカ人を雇い、戦死した人たちの慰安目的でイスラムのお寺をフランスに作ったんです。イスラムでは、お祈りをするときに身を清めてからするので、お寺と一緒にハマムもできたみたいです。パリのおしゃれな人や清潔好きの人はハマムによくいきます。

女優さんやモデルにハマムの中で出会ったことも数回ありますが、そんなわたしもハマムの常連でした。ハマムの中では、おばちゃんたちが髪にヘナとか、顔に土色のミネラルパックとか、みたこともない美容法をやっているのを見る訳です。それで、「それはなんですか」と聞いてみると、いろいろ親切に教えてくれて、これはアラブ人やベルベル人がやっているお店で買えるんだよ、などと教えてくれるわけです。バルベス地区にあるチュニジア人の経営する日常雑貨店にいくと、「ガスール」という肌が柔らかくなるミネラル・パックや、肌に優しい石鹸「サボン・ノワール」だとか、彼らしか買わないような美容グッズがたくさん売っていました。わたしの場合は、お風呂からモロッコ文化に興味を持ち始めたんです。

 

── 最初にモロッコを訪れたときの印象はどうでしたか?

配色

マラケシュに着いたら、まず色の洪水に圧倒されました。着こなしがすごいと思うんです。最初は冬に行ったのですけど、ねずみ男みたいなフードが付いたジュラバというのを着ていて、寒いから2枚重ねとか3枚重ねとかしていて、その色の組み合わせがすごいんですよ。靴は黄色いバブーシュを履いていて、そのおしゃれな配色感覚にびっくりしました。特に男の人の方がおしゃれですね。モロッコの男の人はみなスリムでメタボな人は少ないです。モッロコでは買い物は男の仕事で、マーケットでは売っている方も買っている方も男ばかりです。女の人は家事を任されていて外に出ないので、太っている人が多いですね。ふっくらしている人が美人と言われる国でもありますけど。


── 今迄泊まったホテルのピンとキリを教えてください。

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ピンのほうは、ラ・マムニアかな、チャーチルが「世界中で最も美しい場所の一つだ」とルーズベルトに語ったことで知られるホテルです。1923年に建てられムーア様式にアール・デコが入っているホテルです。
キリの方は、ホテルではないですけど個人の家ですね。歩いていると道端の人が「今日うちに泊まんなよ」って言う訳ですよ。なぜなら、「うちのお母さんのクスクスが超うまいんだから」っていうわけですよ。ナンパしようっていう気は、もしかすると10%くらいあるのかも知れないけど、90%はほんとにお母さんのクスクスがうまいから君を招待したいって言う気持ちのようなんです。


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それで一人だったらいかなかっただろうけど、その時は友達と一緒だったので行ってみようかと言う事になり、家まで行ってみたらホントにお母さんたちがクスクスを作って待っていました。それで、クスクスを食べ終わると、泊まっていけって言うんですよ。後で分かったんですけどどうやらクスクスを家で食べるのと寝るっていうのがセットらしいんですよね。居間のコ字型のソファがベッドになるんです。食事が終わったら毛布が出てきて、あんたはここ、あんたはそこって指示されるんですよ。確かにその時間だともうホテルに戻る交通手段もないので泊まっていきました。
敬虔なイスラム教徒たちは、メッカに巡礼の旅に行くじゃないですか。だから「旅人には親切にしろ」っていう暗黙のルールがあるんだと思います。

(写真)細かい粟粒状の世界最小のパスタ「クスクス」

── 初めてのモロッコに旅行で行くとしたらアドバイスを。

やはりフェズとか、マラケシュのメディナはお勧めですね。泊まるのは伝統屋敷のリヤドがいいですね。それと初めてモロッコに行くときは絶対ガイドを雇う事が重要だと思います。なぜかというと道に迷うんですよ。ガイドはツーリストオフィスとか、ホテルとかで紹介してくれます。ガイド料は国で決まっているので安心です。英語ができるなら問題ないでしょう。いいガイドさんはどこが危険とか、どっちの店の方が安いかとか教えてくれるし、買い物する時にガイドさんがいるとぼられないですから。

── モッロコにいくときに気をつけた方がいい事は

口紅

精神的に弱い人は危ない事に近寄らない方がいいですね。モロッコには魔法が日常的にあるんですよ。トランスのようなグナワの音楽会とか精神的に弱い人がいくと取り憑かれたりする事もあるらしいので気をつけた方がいいです。有名な例では、ポール・ボウルズの奥さんでジェイン・ボウルズが黒魔術に取り憑かれて、おかしくなって死んじゃったて言われています。それにローリング・ストーンズのメンバーだったブライアン・ジョーンズもモロッコの魔術に取り憑かれて死んでしまったらしいです。

(写真)綺麗な口紅の容器

モロッコの女性が眼に入れる黒いアイライン、「コール」っていうんですけど、これは一見お化粧ですけど、魔除けの意味もあり、邪眼を避けてくれます。お守りになるんです。しかも目薬としての役目もあり、悪いものを出してくれるそうです。モッロコの薬屋さんというのは、薬屋さんの役目以外にも、お化粧屋さんと魔法処方屋さんの役目もあるんですよ。薬屋さんにいくと干したカメレオンとか、ハイエナの歯とか、亀の心臓とか売っていて、亀の心臓は気が小さい人が気を大きく持つのにいいそうです。薬屋さんには、クスクスのスパイスとして、好きな人に振り向いてもらいたいためのセットとかも売っていました、この本に載せてますけど、この1番のセットは好きな人に振り向いてもらいたい「愛のクスクスセット」で、いつものクスクスのスパイスにこれを加えると効果があるけれど、それを決して自分で食べてはいけないと言われました。

恋愛には効くのは、ハイエナの脳みそとも言っていましたね。そしてこの2番は「商売に効くセット」で、3番は「頭がよくなるセット」、あと痩せるハーブのセットも打っていました。それとちょっと怖いのが「旦那を不能にさせるセット」というのも売っていました。それは話を聞くと、クスクスの粒々のスムールの作り方は水で小麦を溶くんですけど、その溶くお水は一晩墓場に置いておいたものを使うとされているようです。けっこうモロッコの人は魔術を皆信じているので、夜、墓場には女の人が水を持ってきてるいみたいです。その水は木の桶で、水面には月が映ってないないとだめと言われているんですよ。この話は、この手の迷信と民間療法を研究しているムスタファ・アッヒスミス博士の書籍にも書かれています


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(写真)モロッコの妖しく美しい薬局

── モロッコでの一番不思議な体験は

カサブランカに「アインディアブ」っていうリッチな人向けのビーチがあり、そこのビーチの端に、アブドラヒム島という小さな島があります。引き潮とのときは海岸から島迄歩いていけるのですが、満ち潮のときは海になっていけないという島でした。実は、そこは魔法使いの島なんです。悩みがある特に女の人が訪れる島なんです。わたしは、興味があるから行ってみました。島にはララという、霊的なものを扱う女性祈祷師がいて、その魔法使いに会ったら、あなたはいろいろ気が溜まっているから、お祓い、いわゆる“デトックス”みたいな事をしようと言われたんです。まず裸になりなさいと言われました。その島は男の区域と女の区域に分かれていて、そこは洞窟なので、まあ、誰にも見られないということで裸になりました。で、洞窟の片隅を見たらおばさんが裸になってうずくまっているんですよ。そのまま海岸の方に行きなさいと指示され、「本来ならば潮風に7時間あたっていなければいけない」と言われました。さっきのおばさんをよく見ると、なんと縄で縛られていました。あなたは悪い霊が付いているわけではないから縛る必要はないって言われて、洞窟の窪みに座ってろと指示されました。1時間くらい海を見ながらボーって座っていました。

潮風にあたっているとかなり寒くなり、「いったいわたしはこんなところでなにをやっているのだろう」と裸で洞窟のくぼみに座りながらちょっと後悔していると、ララがやってきて、全身を樹脂のお香で燻蒸させられ、手にヘナ・タトゥーを入れられました。驚いたことは、彼女は鳩使いで、洞窟を出ると鳩がクルクルわたしの廻りを廻っていたことです。最後に、いくらぐらい請求されるのかとドキドキしていたんですが、全部で弱5000円ほどでした。終わった時は、もう潮が満ちていて陸に帰れなくて、困っていると、茶色い馬が現れて「この馬に乗っていけばよい」と親切なおじさんに言われました。海岸までその馬の背に乗って帰りました。水深は馬の足ぐらいでした。これがモロッコでの私の一番不思議な体験だったと思います。

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(写真)引き潮のアブドラヒム島

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にむらじゅんこ プロフィール

静岡生まれ、1970年生。主な著書に『パリを遊びつくせ(原書房)』、『ネコ式フランス語(三修社)』、『フランス語で綴るグリーティングカード(三修社)』などがある。




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