骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2020-10-14 16:00


イタリア娯楽映画の進行形に注目!新たな潮流を牽引するエドアルド・レオとは

アップリンク吉祥寺と京都にて開催&アップリンク・クラウドにてオンライン上映
イタリア娯楽映画の進行形に注目!新たな潮流を牽引するエドアルド・レオとは
『エドアルド・レオ特集上映【イタリア娯楽映画の進行形】』より『わしら中年犯罪団』

イタリア映画の翻訳、配給、本、絵本の翻訳などを中心にイタリア文化を紹介する団体・京都ドーナッツクラブによる『エドアルド・レオ特集上映【イタリア娯楽映画の進行形】』が10月16日(金)アップリンク吉祥寺を皮切りに、10月23日(金)からアップリンク京都にて開催、そして10月30日(金)からオンライン映画館アップリンク・クラウドにてオンライン上映もスタートする。webDICEでは開催にあたり、京都ドーナッツクラブのメンバー・二宮大輔さんに、イタリア娯楽映画の変遷をふまえ、今回の観どころを解説してもらった。

エドアルド・レオとは?

エドアルド・レオ

1972年ローマ生まれ。大学在籍時から端役として映画やドラマに出演。エットレ・スコラやジジ・プロイエッティといったイタリア映画のレジェンドとも交流を持つ生粋のローマっ子だが、好きな監督はキューブリック。『いつだってやめられる』三部作や『おとなの事情』など、日本でも話題になった人気作に多数出演している。いわゆる顔立ちの整ったイタリア人俳優とは一線を画する三枚目キャラ。情けない中年を演じさせたら右に出る者はいない俳優、そして近年は監督としても評価が高まる「イタリア映画の新たな才能」です!

1「ライフ・イズ・ビューティフル!」と謳われたあの頃

喜劇俳優ロベルト・ベニーニが監督を務めた1997年の『ライフ・イズ・ビューティフル』が、イタリア映画最後のヒットだったとみて間違いない。では、その後イタリア映画はどんな末路をたどったのだろう。ヒット作が見受けられないのは、そうとう低迷しているからか。ここで『ライフ・イズ・ビューティフル』以降の2000年代のイタリア映画を総括してみたいと思う。2020年は、きっとそういうことをしてもいい時期だ。

2000年代を代表する監督としてすぐに思いつくのはナンニ・モレッティだろう。私小説のような独特の映画は1970年代から撮りはじめ、90年代にはすでに確固たる地位を築いていたが、2001年に『息子の部屋』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したのは大きかった。その後もコンスタントに作品づくりを続けている。

もうひとりカンヌで評価されている監督と言えば、二度にわたりグランプリを受賞したマッテオ・ガローネだ。モレッティとは打って変わって、クライム映画や残酷なおとぎ話など、ダークで異形な世界を描くのが特徴だ。2019年末には、なんと国民的童話『ピノッキオ』を映画化している。

そして2013年に『グレート・ビューティー/追憶のローマ』でアカデミー外国語映画賞を獲得したパオロ・ソレンティーノを忘れてはいけない。ナポリ出身の彼は、ガローネのダークさに、俗っぽさを混ぜ合わせた上で美しい画を撮ろうとする変わり者。『グレート・ビューティー/追憶のローマ』で、上流階級の紳士たちが悪趣味で豪華絢爛なパーティーに耽る様が、フェリーニの描いた夢のパレードと比較されて話題になった。アカデミー賞受賞時のスピーチで「多大な影響を受けたフェリーニ、スコセッシ、トーキング・ヘッズ、マラドーナに感謝します」と語った彼は、順番に各々をテーマにした作品を撮り、現在はNetflixオリジナル映画用にマラドーナを主人公にした『それは神の手だった』(E stata la mano di Dio)を準備中だ。

さらに付け加えておきたい監督としては『幸福なラザロ』のアリーチェ・ロルヴァケル、『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ、現在『マーティン・エデン』が日本で公開中のピエトロ・マルチェッロなど。いつ三大映画祭で最高賞を獲得してもおかしくない人材たちが揃っている。

映画『ブォンジョルノ、パパ。』
『エドアルド・レオ特集上映【イタリア娯楽映画の進行形】』より『ブォンジョルノ、パパ。』

2 新しいネオレアリズモ

そんななか、2010年代の半ばを過ぎたころ、新進気鋭の映画作家たちが現れる。この頃の状況を説明すると、1994年にメディア王ベルルスコーニが首相になると、ありとあらゆるメディアが、卑俗な週刊誌のレベルにまで、その質を堕とされてしまった。上記で紹介した映画人たちは、ある意味、それに抗って映画をつくり続けていた。いっぽうここで紹介したいのは、2011年に経済危機のあおりを受けベルルスコーニが首相の座を引きずりおろされた後、精神的に爆撃後の更地のような状態のイタリアで、新たに発芽した新たな才能と言ったところだ。

その代表がエドアルド・デ・アンジェリスとディンノチェンツォ兄弟だ。彼らがカメラに収めるのは、都市郊外の荒廃や、どん底で暮らす人々の生きざま。ほぼ無名の俳優を使って撮影されるそれら作品から感じるヒリヒリとした空気は、まるでピエル・パオロ・パゾリーニが1950年代のローマ郊外で知覚したそれではないか。だからと言って安直に「現代のネオレアリズモ」と評するには、まだ議論の余地がある。だが、既存の監督たちとはまた違った方角に向かおうとする強いエネルギーを、この新人監督たちが発しているのは間違いない。

活動の拠点はアメリカだが、イタリア人ドキュメンタリー作家ロベルト・ミネルヴィーニにも、個人的には同じ匂いを感じる。

映画『黄金の一味』
『エドアルド・レオ特集上映【イタリア娯楽映画の進行形】』より『ブォンジョルノ、パパ。』

3 グリーンランドの攻勢

さて、本題はここからである。これまで述べてきた監督たちは、国際映画祭で評価されるゆえに、なんだかんだで日本で鑑賞する機会がある。その国際的な名声の影に追いやられているのが、国内の娯楽映画だ。冒頭で『ライフ・イズ・ビューティフル』以降ヒットがないと述べたが、実際には今もイタリアに多くの才能がいることが、これまでの説明でわかってもらえただろう。それでいてイタリア映画の厚みが薄く感じられるのは、国際賞を受賞する上澄みばかりが注目されて、国内でうごめく娯楽映画のダイナミズムがいっこうに知られていないからではないだろうか。もちろん、これまでにも偉大な喜劇人たちが、捧腹絶倒のB級コメディーが、国民性を大いに反映したチネパネットーネ(クリスマス商業映画)が、日本からはまったくと言っていいほど無視されてきた。だが現在、看過できない一大ムーブメントがイタリア娯楽映画界で巻き起こっているのだ。

それがグリーンランドである。正確にはイタリア語でグリーンランドを意味する「グロエンランディア」という名の映画会社のことだ。設立したのはシドニー・シビリアとマッテオ・ロヴェーレというふたりの映画監督。設立した2014年当時、シビリアは経済不況とそれに伴い失業した研究者をネタにしたコメディー『いつだってやめられる』で好評を博し、マッテオ・ロヴェーレは、カーレースもの『ゴッド・スピード・ユー!』を構想中だった。1980年代に生まれたこの二人の共通項は、いわゆるイタリア映画だけをルーツとしているわけではないという点だ。『いつだってやめられる』はオフスプリングの陽気なロック・ナンバー”Why don’t you get a job?”で始まり、『ゴッド・スピード・ユー!』はイタリアでは珍しいジャンルもので家族愛を描いた。グリーンランドの設立は、新しい感覚を持った若手ふたりが、さらなる高みを目指して手を組み実現したのだった。

そんなグリーンランドの映画第一作は、なんとYoutubeで活動する映像集団The Pillsの長編映画『働くよりはなんでもマシ』(Sempre meglio che lavorare)。Youtubeを主戦場とする彼ららしいハイスピードの会話喜劇は、今までにないイタリア映画の到来を予感させるものだった。さらに『いつだってやめられる』の続編二作に、ローマ建国を主題にした歴史もの『ザ・グレーテスト・キング』と、矢継ぎ早にあっと驚く新作が発されている。

『ザ・グレーテスト・キング』に関しては、喋られている言葉が古代ラテン語で、その壮大な古代世界は『レヴェナント』など、アメリカの超大手映画会社を思わせる質感に仕上がっている。正直、こんな大作を撮る制作費があったのかということが、いちばんの驚きだった。彼らの攻勢は当分とどまりそうにない。

映画『俺たちとジュリア』
『エドアルド・レオ特集上映【イタリア娯楽映画の進行形】』より映画『俺たちとジュリア』

4 そしてエドアルド・レオ

このムーブメントの中心にいる俳優が『いつだってやめられる』三部作の主人公を演じたエドアルド・レオである。自ら監督業もこなす彼もまた、キューブリック好きを公言しており、シビリアやロヴェーレと親和性のあるハイブリッドな映画人だ。

今回の特集上映では、彼が登場する映画四本を選んだ。年代順に紹介すると、2013年の『ブォンジョルノ、パパ。』は父と娘の成長物語。2015年の『俺たちとジュリア』は人生に行き詰った三人の男が再起をかけてファームホテル経営に乗り出すヒューマンドラマ。この二作でレオは監督も務めている。2019年の準新作からはクライム・コメディー『わしら中年犯罪団』とノワール『黄金の一味』を選んだ。はっと目を見張る美男子でもなければ、スターとしてのカリスマ性もないレオだが、バイプレイヤーとしてさまざまな表情を見せ、泣き笑いする彼を観てほしい。そこからはきっと、進行形のイタリア娯楽映画の可能性を感じ取れるはずだ。

(文:二宮大輔[京都ドーナッツクラブ]



『エドアルド・レオ特集上映【イタリア娯楽映画の進行形】』

『エドアルド・レオ特集上映【イタリア娯楽映画の進行形】』
10月16日(金)~25(日)アップリンク吉祥寺
10月23日(金)~29日(木)アップリンク京都
10月30日(金)~11月7日(土)アップリンク・クラウドにてオンライン上映

【上映作品】

『ブォンジョルノ、パパ。』
監督:エドアルド・レオ
出演:ラウル・ボーヴァ、マルコ・ジャッリーニ、エドアルド・レオ
2013年/イタリア/カラー/109分/原題:Buongiorno papa

『俺たちとジュリア』
監督:エドアルド・レオ
出演:ルカ・アルジェンテーロ、ステファノ・フレージ、エドアルド・レオ
2015年/イタリア/カラー/115分/原題: Noi e la Giulia

『黄金の一味』
監督:ヴィンチェンツォ・アルフィエーリ
出演:ファビオ・デ・ルイージ、エドアルド・レオ、ジャンパオロ・モレッリ
2019年/イタリア/カラー/110分/原題: Gli uomini d’oro

『わしら中年犯罪団』
監督:マッシミリアーノ・ブルーノ
出演:アレッサンドロ・ガスマン、マルコ・ジャッリーニ、ジャンマルコ・トニャッツィ、エドアルド・レオ
2019年/イタリア/カラー/102分/Non ci resta che il crimine

主催/京都ドーナッツクラブ
特別協力/イタリア文化会館 東京
協賛/日欧商事、株式会社ComaCo・officina、Gee co.,Ltd、一般社団法人日本ツーリストガイド・アシスタント協会、FM COCOLO CIAO765リスナー有志

キーワード:

京都ドーナッツクラブ


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