骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2020-09-24 13:05


たった1回のキスが"欲望"を生む『マティアス&マキシム』グザヴィエ・ドラン最新作

「テーマは同性愛ではない。愛」30代を迎えたドランが「仲間」と作り上げた意欲作
たった1回のキスが"欲望"を生む『マティアス&マキシム』グザヴィエ・ドラン最新作
映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』のグザヴィエ・ドラン監督の最新作『マティアス&マキシム』が9月25日(金)より公開。webDICEでは、コンペティション部門に出品された2019年の第72回カンヌ国際映画祭でのインタビューを掲載する。

2016年にカンヌ映画祭グランプリを受賞した『たかが世界の終わり』、初英語作品となった2018年の『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』に続く今作は、監督・脚本・編集・衣装・プロデューサーを担当し、故郷であるカナダ・ケベックのモントリオールで親しい仲間たちとともに撮影を敢行。幼馴染のマティアスとマキシムが恋と友情の狭間で揺れる様を捉えている。そ『マイ・マザー』『胸騒ぎの恋人』『わたしはロランス』に出演するアンヌ・ドルヴァルがドラン演じる主人公マキシムの母親役であることから、ドラン監督の原点回帰とも言われているが、繊細な心理描写と演技のアンサンブルに重点を置いたこの作品は、30代を迎えたドランの成熟を現していると言えるだろう。


「つまり、この映画のテーマは決して同性愛ではない。テーマは愛なんだ。その瞬間が突然やって来た時、どう反応すべきかってね。自分はリベラルな人間だと思ってても、実は固定概念に縛られてる場合がある。セクシュアリティは、一度どれかを選んだら変えられないってね。それが隠されたテーマでもある」(グザヴィエ・ドラン監督)


友人たちを撮りたかった

──制作の動機を教えてください。今なぜ この映画を撮ったのか。親しい仲間の物語ですね。2人の男性が悩むのは彼らの関係は友情か……。

愛情か、だね。友人たちを撮りたかった。いや違う。友人と仕事したかったんだ。僕たち自身のことではなく、男らしさや性の違いについて語りたいと考えたんだ。どう言えばいいかな。人は自分のことを、性別によって認識する。その人が何者なのかを性別が定義する。でも時に男らしさとか性別とかが新たな面を見せる。そのとき人は未知の領域に踏み出したり自分を見つめ直したりする。自己の探求も映画のテーマなんだ。

映画『マティアス&マキシム』グザヴィエ・ドラン監督 ©Shayne_Laverdiere
映画『マティアス&マキシム』グザヴィエ・ドラン監督 ©Shayne_Laverdiere

──男性の友情について描きたいと思ったきっかけは?

子供の頃に見た映画が影響してると思う。男性グループが登場するような作品だ。そういう作品に敬意を払いたかったんだ。「アウトサイダー」とか男の友情がテーマの映画さ。でも直接ヒントを得たのは僕の友人たちからだ。彼らとの友情について語りたかった。彼らといると安心できるし、どんどん絆が強くなっていく。10~15年前から親しくしてる友人もいるし、5年ほど前からつるんでる友人もいる。この4年ほどで仲良くなったグループは特に影響力が大きくて僕の人生を変えてくれた。

映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL
映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

──若さもテーマですよね。自分の若いころを考えますか?また、この映画は親しい仲間を描いていますね。映画作家として活動し始めたころを思い出すのでは?

若いときに作れた映画とは言えないな。仲間がいるという感覚を以前は知らなかったからね。

──若さを描くという点であなた自身の若いころに通じる部分がありますか?あなたの若いころと映画で描いたこと、若者たちの物語を語ることです。両者は重なっていますか?

過去の若さではなくて今の若さを描いた映画とは言えるかな。登場するのは20代半ばから後半の仲間たち。すでに言ったけど僕の場合、学校に通っていたころはみんなと同じように仲間がいた。でも17歳か18歳のころから仲間がいるという感覚はなかった。最近仲間が出来たから映画の題材になったんだ。

映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL
映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

──マティアス役にガブリエルを選んだ理由は?

6年くらい友達付き合いをしていて彼に当てて役を書いた。ほかの役もそうだよ。そんなところ。

──あの役を発想させる何かを彼が持っているんですね。

彼の容姿が好きだしカリスマ性があるのがいいんだ。落ち着いているし背が高くて鼻も高い。エネルギーが感じられるんだ。演技のスタイルはテンポがよく、かつ繊細だ。だからあの役にぴったりだと思った。

30代はきっと違う方法で、違うリズムで

──撮影現場はどうでしたか?みんなが親しい仲間同士でしたよね。忘れがたい出来事とか楽しい逸話はありますか?

逸話ねえ。そういう話は苦手だな。面白い逸話は何もないんだよ。撮影現場はすごく面白かったけどね。とても活気のある現場だったから……。友人との撮影のよさは幸せで楽しい中で仕事できることだね。もちろんプロだから厳しく仕事に臨んだが、親しい友人を相手に演技したり創造するのは確かに喜びだ。特別な逸話はないけれど、その経験はとても豊かで騒がしくていいことばかりだった。

映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL
映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

──ところで30歳になりましたね。今年で映画を撮り始めてから10年。第1作は『マイ・マザー』でした。今どのような気持ちですか?映画監督として何を感じるか振り返ってみてください。

変な感じだね。どう言うべきかな。あっという間だったと言いたいところだけど、僕にはとても長く感じられるんだ。デビュー作でカンヌに来たのを「昨日のことのようだ」なんて考えられない。この10年を振り返ると一生懸命仕事して、旅をして、人に出会い創作した年月だった。好評な映画ばかりじゃなかった。いろいろな感情を味わったよ。動揺することもあったし、変化もあった。混乱したり考えこんだりする魔法の10年だった。いいこともあったし、悪いこともあったね。おかげで この先も生きていこうと思える。30代はきっと違う方法で、違うリズムでね。

──驚いたのは作中の会話がどれも即興ではなく脚本の段階で細かく描写されていた点です。あのやりとりを脚本で描くのは難しかったのでは?

即興は好きじゃない。人工的な印象を受けるんだ。もちろん上手な人もいるけど僕は役者として即興にすごく不安を感じる。即興だとバレたらいい結果は生まれないからね。みんなリアルさを求めて即興を取り入れたがるけど、理想どおり仕上がってる成功例は少ないと思う。今の説明で分かるかな。即興の方が躍動感があると言う人もいるけど、僕は磨きのかかった脚本に沿って撮ることを好む役者と念入りにリハーサルをして完成度を高めていくんだ。それぞれのキャラクターの特徴も出せたら最高だね。話し方やイントネーションはもちろん、英語やフランス語のレベルも差をつける。本作もそのように準備して撮影に臨んだ"。そうすることで、彼らの親密な関係を表現することができた。英語でどう言えばいいのかな……フランス語のcompliciteという言葉だ。気の知れた仲だからやりやすいという意味だ。お互い何を考えてるのか理解しやすい。

──彼らの細かい仕草に感動しました。マックスの送別会でスピーチをしてる時にサミュエルの役があなたの髪を触ります。本物の友人同士しか見せない動作で、それを見事にとらえてるのがすばらしかったです。

ありがとう。この作品は 絶え間なく会話が交わされてるけど、その隙間を埋める沈黙や目線も多くを物語ってる。彼らが発する言葉よりも重要なメッセージを伝えてる場合もある。全員おしゃべりなんだよね。

映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL
映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

──マティアスとマキシムは葛藤に苦しみますが、その点について聞かせてください。彼らは幼い頃から仲がよく互いを大切に思っているものの2人の間に新たな感情が生まれます。

男性特有の曖昧さや優柔不断さには僕もずっと悩まされてきた。新しい自分を発見したいと言って僕に近寄って来るんだ。そんな彼らを僕は信じて世界を広げてあげようとする。でも恥じらってるのか迷いがあるのか、周囲に秘密にする人が多い。好奇心を満たすために気軽に誘ってくる人もいる。とにかく僕の人生はそのような恋愛の連続なんだ。恋愛というより出会いの方が正しいね。

マティアスとマキシムは幼なじみで仲がよく、2人ともストレートという点に最初からこだわってた。2人は予期せぬ感情に襲われ完全に不意をつかれるんだ。長年くすぶってた想いというわけではない。これを機に彼らは気付くのさ。人は感情を揺さぶられてから魅力を感じるとね。“魅力”じゃないな、何て言えばいいんだろう。“欲望”の方が正しいね。2人は1回のキスに完全に翻弄されてしまうんだ。そのことが頭から離れなくなり、友情関係にも次第に影響が出てくる。残念なことだけどね。

つまり、この映画のテーマは決して同性愛ではない。テーマは愛なんだ。その瞬間が突然やって来た時、どう反応すべきかってね。僕たちは周囲から枠にはめられがちだ。ストレートかゲイか、バイセクシュアルか。2人もその枠にとらわれてしまう。変わりたいと思ってもそこにはリスクが伴う。本当に自分のことを理解してるのか、アイデンティティを追求する。覚悟はあるのかと問いかけてる。自分はリベラルな人間だと思ってても、実は固定概念に縛られてる場合がある。セクシュアリティは、一度どれかを選んだら変えられないってね。それが隠されたテーマでもある。

(オフィシャル・インタビューより)



グザヴィエ・ドラン(Xavier Dolan)

1989年、カナダ・ケベック州出身。幼少期より映画やテレビ番組に出演する子役出身の俳優でもある。2009年、自身が19歳の時に監督・主演・脚本・プロデュースした半自叙伝的なデビュー作『マイ・マザー』で国際的に高い評価を受けた。 その後、2010年から2019年の間に続けて7本の監督作品を発表。2010年に『胸騒ぎの恋人』、2012年に『わたしはロランス』がカンヌ映画祭「ある視点」部門に出品された。『わたしはロランス』は、トロント国際映画祭で最優秀カナダ映画賞受賞、カンヌ国際映画祭ある視点部門女優賞とクィア・パルムを受賞した。2013年、ヴェネツィア映画祭で『トム・アット・ザ・ファーム』がFIPRESCI賞を受賞。2014年には『Mommy/マミー』がカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、カナダ・スクリーン・アワードで最優秀作品賞を含む9部門での受賞を果たした。2016年には『たかが世界の終わり』がカンヌ映画祭グランプリをはじめ、セザール賞最優秀監督賞と最優秀編集賞など多くの映画賞を総なめ。初英語作品となった『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』では、ナタリー・ポートマンやキット・ハリントンなど豪華ハリウッド俳優の競演が話題になった。映画の監督以外では、『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のオープニング曲を担当したシンガーソングライター、アデル「Hello」のミュージックビデオを手掛け、カナダのグラミー賞に値するジュノー賞で年間最優秀賞に輝いた。




映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL
映画『マティアス&マキシム』© 2019 9375-5809 QUÉBEC INC a subsidiary of SONS OF MANUAL

映画『マティアス&マキシム』
9月25日(金)より全国ロードショー

監督・脚本・編集・衣装・プロデューサー:グザヴィエ・ドラン
出演:ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス、グザヴィエ・ドラン、ピア・リュック・ファンク、サミュエル・ゴティエ、アントワン・ピロン、アディブ・アルクハリデイ、ハリス・ディキンソン、アンヌ・ドルヴァル、ミシュリーヌ・バーナード、キャサリン・ブルネット、マリリン・カストンゲイ
製作:ナンシー・グラン、グザヴィエ・ドラン
製作総指揮:ミヒェル・メルクト、マイケル・クロニッシュ、ナタナエル・カルミッツ、エリーシャ・カルミッツ、ナンシー・グラン
撮影:アンドレ・ターピン
美術:コロンブ・ラビ
配給:ファントム・フィルム
2019年/120分/カナダ
原題:Matthias et Maxime

公式サイト


▼映画『マティアス&マキシム』予告編

キーワード:

グザヴィエ・ドラン


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