骰子の眼

cinema

2019-12-12 10:00


フリーダイビング日本代表・岡本美鈴が語る「何度でも観たいジャック・マイヨールの貴重な映像」

映画『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』公開記念トークイベント
フリーダイビング日本代表・岡本美鈴が語る「何度でも観たいジャック・マイヨールの貴重な映像」
映画『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』の上映後トークに登壇したフリーダイバーの岡本美鈴さん。

映画『グラン・ブルー』で知られる伝説のダイバー、ジャック・マイヨールの生涯を追ったドキュメンタリー映画『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』の公開記念トークイベントが、去る12月10日にアップリンク渋谷で行われ、ゲストにフリーダイバーの岡本美鈴さんが登壇した。

岡本さんは26歳の時、偶然テレビで見た小笠原の海に魅せられ、イルカと一緒に泳ぐことを夢みたが、当時はカナヅチだった。地下鉄サリン事件に遭遇した後、会社員を辞め30歳でフリーダイビングを始めた。以降は持ち前の探求心で次々に記録を伸ばし、2006年には日本記録を樹立。2015年の世界選手権で日本人初となる個人戦金メダリストとなった。現在も日本代表として世界各地を転戦しながら活躍している。以下に岡本さんによるトークの模様を掲載する。


ジャック・マイヨールについて

私の身近にジャックさんと親交があった方が多く、生前のジャックさんがどんな人だったか聞いていたので、『グラン・ブルー』で描かれていたジャックさんと実際のジャックさんは違うことは知っていました。ジャックさんは好奇心が旺盛で、自由でイルカのような人だったんだと思います。なので、この映画を観たときには、聞いていた通りの人だと思いました。私が特に目が離せなかったシーンは、ジャックさんが競技に挑む貴重な映像です。水面で息を整える様子や、潜っていくときの目をつむっている様子など、何回でも観たいです。ジャックさんは、陸上でイルカと戯れていたり、人と話していたりするときと、水中での印象がまったく違います。きちんと切り替えができる、ルーティンができているんだと思いました。

映画『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』より
映画『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』よりイルカたちと泳ぐジャック・マイヨール

フリーダイビングについて

フリーダイビングは苦しいスポーツだと思われている方が多く、よく聞かれるのですが、息を止めていても苦しくない時間というのが実はあるんです。その苦しくなく気持ちいい時間を、いかに伸ばしていくというのがフリーダイビングです。私は4分半ぐらいまでは苦しくない時間があって、そこを伸ばしています。映画の冒頭でも描かれていましたが、ウィリアム・トゥルブリッジが真っ暗な中で動きを止めて落ちていくのを“フリーフォール”と呼びます。水圧が増え体内の空気が圧縮されると、動きをつけなくても重力で身体が沈んでいく状態のことです。私はもともとカナヅチなので、最初はこの深海の空気のない場所が怖くて、力を抜くことができませんでした。恐怖心のブロックを解くのに数年かかりましたが、今は気持ちいいと思っています。

映画『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』より
映画『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』よりウィリアム・トゥルブリッジのフリーフォール

極限状態でポジティブな心を保つ

行きはボトムに到達するまでは、そんなに苦しくありません。深く潜っていくとかなり酸素を使っていて、代わりに二酸化炭素が体内に溜まっている状態なので、身体が重く感じます。ターンしてしばらくすると苦しくなってくるんです。行きと帰りではモードがまったく違って、帰りの方が苦しいです。30mまで上がっていくと、セーフティーダイバーというダイバーが素潜りで迎えにきてくれるんです。なぜかというと、30mから水面に向かうまでは、体内にほとんど酸素がなくなっていて、酸素欠乏による失神=ブラックアウトが起きやすいゾーンだからです。そのセーフティーダイバーに会うまでが孤独で、ここでネガティブな気持ちになってしまうと、「今日初めてブラックアウトするかもしれない」というぐらい、身体が重くなってしまうんです。だけど不思議なもので、気持ちを明るく持つと、身体が無意識に自動的に動いてくれるんです。自分の心の持ちようで身体が限界でも動くことを、毎回これで体験しています。物事をネガティブに解釈するのかポジティブに解釈するのかで、パフォーマンスが変わるってくるので、心の力は本当にすごいと思います。

岡本美鈴さん

岡本美鈴(おかもと・みすず)

1973年1月東京生まれ、千葉県在住。2003年より神奈川県真鶴を拠点にフリーダイビング競技を始め、2006年、CWT種目(海洋深度競技)で初めて日本記録を樹立。2010年のAIDA世界大会(団体戦)で、自己初=日本初の金メダル獲得。以降も様々な国際大会で自己記録を伸ばして、世界TOPランカーを維持。又、2010年にはNPOエバーラスティングネイチャーと共に、海洋保全PR活動「Marine Action」を立ち上げて、「海のエコ」を追求。プロの日本代表フリーダイバーとして世界中を転戦しながら、スクール・講演・イベント・メディア・企業案件・官公庁案件を通じて海の素晴らしさと競技の楽しさの社会に伝達している。趣味は灯台巡り。ニックネームは「みみずん、Mimi」。キャッチフレーズは『海を敬愛するリアル・マーメイド』。オフィシャルサイト

岡本美鈴さん

映画『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』

『ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ』
新宿ピカデリー、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中

監督:レフトリス・ハリートス
出演:ジャック・マイヨール、ジャン=マルク・バール、ドッティ・マイヨール、ジャン=ジャック・マイヨール、成田均、高砂淳二、ウィリアム・トゥルブリッジ ほか
ナレーション:ジャン=マルク・バール
製作・提供:WOWOW
配給・宣伝:アップリンク
2017年/ギリシャ、フランス、日本、カナダ/78分/カラー、モノクロ
映画公式サイト

(c)2017 ANEMON PRODUCTIONS/LES FILMS DU BALIBARI/GREEK FILM CENTRE/IMPLEO INC./STORYLINE ENTERTAINMENT/WOWOW
写真:Mayol family archive/Daniele Padovan/Daan Verhoeven/Junji Takasago/Mehgan Heaney-Grier/Bruno Rizzato

レビュー(0)


コメント(0)