映画『失くした体』
切断された手が自分の体を求めて街をさまようという設定で、世界の映画祭を騒がせているフランスのアニメーション映画『失くした体』が、11月29日(金)からのNetflix配信に先駆け、11月22日(金)からアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて日本劇場公開される。
『失くした体』は、フランスのジェレミー・クラパン監督が『アメリ』脚本のギョーム・ローランの原作を映画化。世界最大のアニメーション映画祭、第42回アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞のクリスタルと観客賞をダブル受賞、第72回カンヌ国際映画祭批評家週間でグランプリを受賞、そして11月4日まで開催されていた第6回新千歳空港国際アニメーション映画祭では長編グランプリ賞を受賞と、2019年の国内外映画祭を席巻している。
webDICEでは劇場公開にあたり、海外メディアに掲載された情報やクラパン監督の発言から、作品の魅力についてまとめた。
「ポストカード」ではないパリを描く
『失くした体』はパリを舞台にした、ある医療研究施設から逃げ出した切断された手の物語だ。その手は、体の持ち主であるピザの配達人ナウフェルを捜して街をさまようが、何かに触れるたびに記憶がよみがえっていき、ナウフェルの幼少期や、思いを寄せる司書ガブリエルとの思い出が明かされていく。『アメリ』の脚本をてがけたギョーム・ローランの小説『Happy Hand』を原作とし、2017年初頭に製作が開始された。フランスのスタジオ、シーラムがアニメーション制作を担当。オープンソースの3DCGソフト・ブレンダーを使用しながらも、手描きのタッチを活かした作風となっている。
「他の人の作品を映画化するのは初めての体験でした。ギョームと仕事をして、最初は原作の世界を捨てて映画として新しい要素をどう取り入れるか、時間がかかりました。その間に資金集めも行いました。切られた腕のお話なんて企画書のうえではあまり魅力的ではないですから、とても大変でした。多くの時間がかかりましたが、脚本の改変を迫られるほどではありませんでした」(ジェレミー・クラパン監督)
(【Screen】'I Lost My Body' director Jeremy Clapin talks Netflix deal and Cannes, Annecy prizes)
映画『失くした体』
しかしクラパン監督は、同じパリが舞台である『アメリ』との共通点についてはやんわりと否定する。
「あのような典型的なパリの描き方を何としても避けたいと思いました。私はパリに住んだことがありますが、『アメリ』に出てくるようなパリを一度も見たことがありません。詩というのはポストカードようなきれいな画からではなく、都市の生活から生まれるもの。常に建設中のパリが好きなのです。打ち捨てられた土地は、美しい建築物よりも多くのことを伝えます」(ジェレミー・クラパン監督)
(【Screen】'I Lost My Body' director Jeremy Clapin talks Netflix deal and Cannes, Annecy prizes)
映画『失くした体』
大人向けアニメーションの発展のために
資金集めが難しい長編アニメーションというジャンルだが、Netflixが今作をカンヌ出品まで実現させたことについてクラパン監督は「リスクを負うことができることを証明した」と評価する。
「大人向けのアニメーション映画は上映することは世界で難しい。この映画は、アニメーションの世界でどこでもで観られる最初の機会のひとつになります」(ジェレミー・クラパン監督)
(【Screen】'I Lost My Body' director Jeremy Clapin talks Netflix deal and Cannes, Annecy prizes)
「大人向けのアニメーション映画の製作は、特定の認められた枠組みに収まらない場合はとりわけ難しい。アニメーターとして、短編を製作する際は成熟度の高いテーマを自由に追求することができますが、長編映画はより商業的なスケールのため、多くのスタッフと資金が必要になり、過度に慎重にならざるを得ません。観客を不安にさせるような、どの枠組みにも収まらないプロジェクトのためにもっと用意に資金集めができればいいと思っています。業界は前進する必要があります。自己検閲をやめ、危険を冒すことのできるプロデューサーとディストリビューターがもっと必要です。すべてのアニメーションが子供のためである必要があるのか?かわいい画でなければいけないのか?発展のためには、これらの質問に対処する必要があり、この映画が議論を前進させることを願っています」(ジェレミー・クラパン監督)
( 【Variety】‘I Lost My Body’ Director Jeremy Clapin on his Critics’ Week Winner)
映画『失くした体』
ロッテン・トマトのレビューより
今まで観た中で最も独創的で創造的なアニメーション映画のひとつだ。言うまでもなく不気味で、しかし驚くほど魅惑に満ち、いつのまにか予想外に詩的な物語になっている。(Peter Debruge/Variety)
極めて独創的で、身体的そして精神的な喪失感の描写がさらに感動を呼ぶ。これは映画祭での話題を越える牽引力のある、成熟したアニメーション映画だ。(Jordan Mintzer/Hollywood Reporter)
映画『失くした体』
映画『失くした体』
11月22日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて公開
監督:ジェレミー・クラパン
製作:マルク・デュ・ポンタビス
原作:『Happy Hand』ギョーム・ローラン(『アメリ』脚本)
2019年/81分/フランス/原題:J’ai perdu mon corps/G