骰子の眼

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東京都 中央区

2019-10-31 22:40


6000年の伝統をiPhoneで撮影、『ジョージア、ワインが生まれたところ』監督語る

「長年侵略されながらも豊かな文化を持ち、素晴らしい生き方をしている彼らを伝えたかった」
6000年の伝統をiPhoneで撮影、『ジョージア、ワインが生まれたところ』監督語る

「映画で旅する自然派ワイン」と題し、『ジョージア、ワインが生まれたところ』(アップリンク配給)、『ワイン・コーリング』(クロックワークス配給)という、自然派ワインとその生産に取り組む人々を描く映画2作品を11月1日(金)より、シネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開する。webDICEではエミリー・レイルズバック監督のインタビューを掲載する。

レイルズバック監督が撮影に臨んだのは、紀元前6000年に遡る世界最古のワイン醸造の起源を持つジョージア。2013年にユネスコ世界無形文化遺産に登録されたクヴェヴリ製法を守ってきた人々の歴史と営みを描くドキュメンタリーだ。

同時公開となる映画『ワイン・コーリング』ブリュノ・ソヴァール監督のインタビューはこちら


「ジョージアには5ヵ月滞在し、撮った映像は170時間に及びます。撮影は、iPhone 6で行いました。クラシックワインのクリーンで艶のある味わいと比べ、飾り気がなく素朴な味わいのジョージアワインに適するよう、“格好いい”ビジュアルよりもプレーンな画にしたかったからです」(エミリー・レイルズバック監督)


素朴な味わいのジョージアワインのような画にしたかった

──なぜ、この映画を撮ろうと思ったのですか?

一番の理由は、ジョージアの人々に魅せられたからです。ジョージアでは、食事中のもてなしや愛情表現が感動的なんです。トビリシで最初に食事をした由緒あるレストランでは、ジョージアの人たちが食事に感心したり、友人たちの話や心づかいに感動したりすると歌い出すのを見て、自然と涙が出てきてしまいました。長年、外食産業で働いてきましたが、あれほど鮮やかに自分の感情を飲んだり歌ったりして表現する文化に触れたのは初めてでした。ジョージア人の家族を訪れるたびに、食事を提供してくれました。言うまでもありませんが、ジョージア滞在中に太りました(笑)。

映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』エミリー・レイルズバック監督
映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』エミリー・レイルズバック監督

──撮影や編集はどのように行いましたか?

ジョージアには5ヵ月滞在し、撮った映像は170時間に及びます。撮影は、iPhone 6で行いました。クラシックワインのクリーンで艶のある味わいと比べ、飾り気がなく素朴な味わいのジョージアワインに適するよう、“格好いい”ビジュアルよりもプレーンな画にしたかったからです。それに、ジョージアでは目立つ機材を持っていると、人々が避けるように隠れてしまう。携帯電話は見慣れていて気にせず話してくれるため、対象者との距離を縮められると思ったのです。

編集には2年かかりました。いろんなタイプの映画を何本も作れるくらい、かなりの量の映像がありました。もっとワイン作りに焦点を当てたバージョンもあったのですが、詩的でもなく面白くもありませんでした。歴史の中で長年侵略されながらも、豊かな文化を持ち、素晴らしい生き方をしている彼らを伝えたかったのです。編集をしながら、どの人物を核に据えるか絞っていき、ソビエト占領時代の過去、伝統的な多声合唱、若い世代によるクヴェヴリ製法の復活などを、タペストリーのように紡ぎあげました。

映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』
映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』

──映画に登場するマリアム・イオセビゼさんは、ジョージア人女性で初めて自分のワインを輸出したワイン生産者ですね。女性のワイン生産者は少ないのですか?

撮影していた2015年当時は、女性が作るワインを2つしか知りませんでしたが、今では少なくても10人かそれ以上の女性ワインメーカーを思い浮かべることができます。長年にわたり家父長制度社会だったジョージアでは、「女性もワインを造るべきだ」という考え方は革新的でした。でも、ワイン作りはジョージアの文化にとても深く根ざしていて、女性がワインを作るのは自然なことに思えます。彼女たちはこれまでもずっと醸造を手伝い、ワイン作りの豊富な知識を持ち、ブドウ畑で働いてきています。ジョージアでは女性は深く尊重されていますし、もともと「誰もがワインを造るもの」という意識があるので、それはどんどん伝染していっています。ジョージア国民は、王国が栄華を極めた時代に国を治めたタマル女王を愛しているし、それに、ジョージア語は文法的な性の区別がない言語なんです。

映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』
映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』

次回作は北海道ワインのドキュメンタリー

──ジョージアのワイン造りは今後どうなっていくと思いますか?

ジョージアのワイン生産のカギは、伝統的な醸造方法で他にはないワインを作ることだと思います。ジョージアの経済を牽引するのはワインです。しかし、伝統的なクヴェヴリ製法のものは、販売されているワインの中でわずか1%です。最良の方法は伝統を守り続けることだと思いますが、大量生産はできません。クヴェヴリごとに注意する点も異なります。クヴェヴリ製法を機械化することはできません。時間と手間が必要なのです。

映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』
映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』

──ジョージア以外で、これからのナチュラルワインに興味がある国はありますか?

日本です。日本のワインの独自性は、伝統的な発酵食文化をブドウに適応させていることですよね。ブドウ果汁の発酵には、味噌や日本酒を作る大豆や米の発酵とは違う技術が必要なので、日本のワイン生産者たちが、今までの考え方や視点を変えて取り組んでいるところが面白いです。次回作は、北海道ワインのドキュメンタリーです。

映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』
映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』

──すでに北海道で撮影されたとお聞きました。

今年(2019年)5月に、余市、小樽、札幌、名寄、富良野などを2週間で巡りました。北海道のすばらしいワイン農家とアーティストがやっていることを見せる映画になります。日本最北のワイナリーがある名寄では、ある女性オーナーがブドウ樹の間にキャンドルを置くのです。6月でも凍ってしまう可能性があるので。気候が完璧ではないせいで、非常に手間がかかりますが、素晴らしいワインを作っています。日本ワインのことは世界に知られていないので、「日本のワインについてのドキュメンタリーを撮っている」と言うと、「それは酒のこと?」と必ず聞かれます。だから、この映画を観ると世界の人も驚くことになると思います。『Made in Japan』というタイトルになる予定です。それと、日本にいた間に、栃木県足利市のココ・ファーム・ワイナリー(知的障害者支援施設の「こころみ学園」が運営)も訪れたのですが、ワイン造りで社会改革を試みているのがすごいなと思い、撮影させてもらいました。その短編ドキュメンタリーを完成させたいと思っています。




映画で旅する自然派ワイン

「映画で旅する自然派ワイン」
11月1日(金)、シネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、
アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』

紀元前6000年に遡る世界最古のワイン醸造の起源を持つジョージア。2013年にユネスコ世界無形文化遺産に登録されたクヴェヴリ製法は、素焼きの甕を土の中に埋め、ジョージア固有のブドウ品種と野生酵母により発酵・熟成するワインの醸造法であり、その新しい味わいに今、世界から注目が集まっている。かつてはどの家庭でも作られていたこの伝統製法のワインは、ソ連の占領とソ連式大量生産による品種削減や禁酒法などの影響により、現在は極めて少量しか作られていない。本作は、逆境に立ち向かいながら「究極の自然派」と呼ばれるクヴェヴリ製法を守ってきた人々のドキュメンタリーである。

監督・撮影・編集:エミリー・レイルズバック
出演:ジェレミー・クイン、他
2018年/アメリカ/78分/英語、ジョージア語/DCP/1:2.35
原題:Our Blood Is Wine
字幕翻訳:額賀深雪
翻訳協力:ニノ・ゴツァゼ
字幕監修:前田弘毅
配給・宣伝:アップリンク


公式サイト

▼「映画で旅する自然派ワイン」予告編

キーワード:

ドキュメンタリー


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