「映画で旅する自然派ワイン」と題し、『ジョージア、ワインが生まれたところ』(アップリンク配給)、『ワイン・コーリング』(クロックワークス配給)という、自然派ワインとその生産に取り組む人々を描く映画2作品を11月1日(金)より、シネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開する。webDICEでは『ワイン・コーリング』のブリュノ・ソヴァール監督のインタビューを掲載する。『ワイン・コーリング』は、自然体で人生を楽しむ南フランス、ラングドックとルーション地方のワイン生産者たちの愛すべきライフスタイルとともに追いかけたドキュメンタリーだ。
同時公開となる映画『ジョージア、ワインが生まれたところ』エミリー・レイルズバック監督のインタビューはこちら
「今の新しい世代は、将来を見通したときに展望がひらけない厳しさを感じていると思う。映画は、自分の娘たちにも問いかけているんだ。彼女たちが触発されて「自分が何をして、何を選ぶとしても、何かしら感動できるものがある」と考えてくれたらと思っている。人間性が豊かで、欲求もある幸せな人たちを見ると、人は安心すると思うんだ」(ブリュノ・ソヴァール監督)
ルーション地方は規則から解放されている
──フランスの南部にあるワインの産地として知られているラングドックとルーション地方のヴィニュロン(ブドウを栽培してワインを造る人)たちを追いかけようと思ったのはなぜですか?
今日、ラングドックとルーション地方では、ビオロジックと同様に自然派への転換も進んでいる。新しいヴィニュロンがここにやってきたのは、ここには買うべき土地、とりわけブドウ畑があったから。フランスの至る所に、いいヴィニュロンがいる。しかし、一歩道をそれて踏み出して自分自身で作り上げるという変化の足取りは、規則から解放されている度合いが高いという意味で、ルーションだけで進んでいると僕は考えている。ほかの場所は、伝統や世代間の関係に囚われている。ブドウ栽培の技術はとても高いけれど。
『ワイン・コーリング』ブリュノ・ソヴァール監督
──生産者たちとどうやって信頼関係を築いたのですか?
野生的な生産者たちから信頼を得るには1年かかった。相当の時間をかけて近づき、信頼関係を確立して、8ヵ月撮影した後は、彼らはみな僕たちの活動の誠実な部分を記録するべくひとつになっていた。彼らがすることや、彼ら自身、とくに彼らの人格や言葉のアクセントや話し方について勝手な解釈をしないという僕たちの意思を知って安心してくれた。そのおかげで彼らは、この映画を完成するために僕が必要としていたもの、つまり人間的な側面も含めて内面を見せてくれた。みんな次々に、すべてを与えてくれたんだ。最初は、もっと音楽的な作品にしたいと考えていた。でもしだいに人間の経験に関するものに移行していったんだ。
映画『ワイン・コーリング』
ワインの色を見て選ぶようになった
──ビオロジックやビオディナミのヴィニュロンではなく、自然派ワインに的を絞ったのはなぜ?
最初から連帯の概念に興味があったんだ。1970年代にあったような共同体とか、もちろんセクト主義ではなく、助け合うという点で。ステファン・モランを通じて、彼らみんながつながっていて友達なのだとすぐにわかった。彼らはブドウ栽培やワイン造りの域を超えて広がる、大きな動きを形成している。確かに、映画はワインについて語っている。でもそれは、社会を語るためのきっかけだ。もはや適切でもない規則から解放されて、辛い思いをしている人を助け、さらに人生の成功は、収入ではなく人間によって得られるのだと言うことを受け入れることなどについてだよ。彼らは、その人生の選択がうまくいっていて、公正で誠実に歩を進め、そうかといって必要以上に欲することなく生きているということを示しているんだ。
僕には二人娘がいて、16歳と21歳だ。今の新しい世代は、将来を見通したときに展望がひらけない厳しさを感じていると思う。映画は、娘たちにも問いかけているんだ。彼女たちが触発されて「自分が何をして、何を選ぶとしても、何かしら感動できるものがある」と考えてくれたらと思っている。人間性が豊かで、欲求もある幸せな人たちを見ると、人は安心すると思うんだ。メッセージをぼかすことなく、人々を安心させたいと願っていた。とりわけステファン・モランが、古い労働者たちの共同体に言及したときがそうだ。「あなたの隣人、彼が転んだら、助け起こすんだ」
映画『ワイン・コーリング』
──ワイン愛好家としてのあなたたちの人生は、自然派ワインによってどう変化した?
まさに全部だよ。若いころは、スペインのワインに強く心をひかれていた。その後は何年間も、みんながするように値の張るワインを飲んだ。自然派ワインは、自分が何を飲んでいるか理解しているし、それに興味があるから、ワインに攻撃されているような感じがしない。この映画の制作の過程で、本当にたくさんのワインを飲んだよ。自然派ワインのおかげで死なずにすんだ(笑)。この映画の制作を経て、自然派ワインのエチケットのデザインがいくら優れていても、僕はワインの色を見て選ぶようになった。こんなに色が多くを語るのは、自然派ワインだけだと思う。
映画『ワイン・コーリング』
──自然派ワインを扱っている映画は、ジョナサン・ノシターの『Resistance Naturelle(ナチュラル・レジスタンス)』や『モンドヴィーノ』もありますが、これらとの違いは?
これらの映画は、とても明確にある問題提議をしていて、それが戦いに結びついている。『モンドヴィーノ』は味の画一化への告発だ。『ワイン・コーリング』では生産者たちの人生、その日常を見せて描くことに力を注いだ。農業の専門家としての技巧にではなく、人間性に作られるワインが見えてくる映画だ。
ブリュノ・ソヴァール(Bruno Sauvard)
フランス、ブルゴーニュ圏、トルネール出身。コマーシャル、ミュージックビデオ、ドキュメンタリーや劇映画を撮る。1996年にミカエル・ヴィジェールと共同監督をした"Le souffleur" という短編映画を発表。ワイン愛好家。「反抗的精神を持つワインメーカーを追った作品という事で、アカデミックなドキュメンタリーというスタイルではなくドキュメンタリーという枠を壊し、革新的なアプローチで撮りたかった」と話す。現在はフランス南部ナルボンヌに暮らしている。
「映画で旅する自然派ワイン」
11月1日(金)、シネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、
アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
映画『ワイン・コーリング』
南フランス、ルーション地方。フランス自然派ワインのパイオニアともいわれるジャン・フランソワ・ニックの元には、 同じくワイン造りに取り組む者たちが集まってくる。 彼らは常に情報交換をし収穫に人手が足りなければ助け合い、 ワイン造りを行っている。早朝から汗を流して働き、 家族とともに食事をとり、 夜は仲間たちと楽しくワインを飲む。自然と向き合うことは苦難の連続だが、「必要以上にお金を稼ぐ必要はない」「納得できるワインを届けたい」と、そんな苦労をものともせず、ナチュラルに大いにワイン造りと人生を楽しんで生きている。生産性を追い求めることなく、どんなに手間がかかろうとも、体と地球に優しいワインを作り続ける彼らの姿は、人生で本当に大切なものは何かを私たちに教えてくれる。
監督:ブリュノ・ソヴァール
出演:ジャン・フランソワ・ニック、他
2018年/フランス/90分/フランス語/DCP/5.1ch/1:1.85
原題:WINE CALLING
配給・宣伝:クロックワークス