骰子の眼

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2019-10-10 22:30


マレーシアの人種意識を変えた革命的恋愛映画『細い目』ヤスミン・アフマド監督作品
映画『細い目』

ヤスミン・アフマド監督の初期の傑作『細い目』が10月11日(金)からアップリンク渋谷アップリンク吉祥寺を皮切りに全国で公開される。webDICEでは、今年7月に開催された「没後10周年 ヤスミン・アフマド監督特集」に際して来日した女優シャリファ・アマニのインタビューを掲載する。

『細い目』はマレー人の少女オーキッドと中華系少年ジェイソンを主人公としている。民族や宗教が異なる男女の恋という当時マレーシア映画が描こうとしなかったテーマを描いている。マレー語映画が主流であった時代に英語、マレー語、広東語、などが飛び交う多言語の映画として完成させた。今回のインタビューでは、当時17歳で撮影に参加し、ヤスミン監督のミューズと言われるようになったアマニが、撮影時のエピソードやこの作品がマレーシアの人々に与えた影響について語っている。

なお、ヤスミン・アフマド監督の長編映画としての遺作『タレンタイム~優しい歌』も10月11日(金)からアップリンク渋谷アップリンク吉祥寺で上映される。


「ヤスミンはいつもこう言ってました。『人種差別的な人がこの映画を見て、最後に“この2人の恋がうまくいくといいな”と思ってくれたら、しめたものよ』って。好きな人を好きになる。それは自然なことだし、人種が違うからってその人を嫌いになれないでしょ?当時は物議をかもしたりもしたけど、今ではそれは特別なことではないという時代になりましたよね」(シャリファ・アマニ)


今もずっと続いている物語

──アマニさんは17歳で主演した『細い目』をきっかけに、ヤスミン作品に欠かせない存在になりましたが、当時演技経験もなかったあなたが、どんな経緯で『細い目』に出演することになったのですか?

それは「運命」のお話です(笑)。ある日、夜中の3時頃(笑)。私は少しやんちゃで、そんな時間なのに姉とふたりで街をぶらぶらしていました。すると、家族ぐるみでお付き合いがあった俳優のジット・ムラッドさんと偶然会ったんです。ムラッドさんはヤスミンと一緒でした。ヤスミンはその時、バジュクロン(マレーシアの伝統衣装)を着ていましたが、足元はスニーカー。そんな人はいませんから、私はなんて変わった人だろうと思いました。そしてその一週間後、ムラッドさんから母に「ヤスミンがナニ(アマニの愛称)に新しい映画のオーディションに来て欲しいって言っているよ」と電話があったんです。

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映画『細い目』主演のシャリファ・アマニ

──それがすべての始まりですね。

ソウソウ(日本語で)。ヤスミンは亡くなったけれど、彼女がいまの私を作ってくれたのだから、今もずっと続いている物語の始まりですね。

──『タレンタイム 』で音楽をやっているピート・テオは、初めてヤスミンが見せてくれた彼女の映画が『細い目』で、「僕の趣味じゃないけど(笑)、これまでのマレーシア映画で一番勇気がある映画だと思うよ」とヤスミンに言ったと話していました。当時17歳だったあなたにとっては、それが人種の異なる中華系の少年とマレー人の少女の恋のお話だと知って、何か難しさはありましたか?

私の祖母は中華系でインド系ムスリムと結婚しましたし、とてもオープンな家だったので、個人的には『細い目』が特にタブーを扱った映画とは思いませんでした。それに当時は、初めての映画だったので演技のことだけで精一杯。でも今思うと、美しいラブストーリーなのに、そこかしこにとても大切なメッセージが隠されていて、『細い目』はマレーシア映画を変えた映画なんだと思っています。

ヤスミン・アフマド監督
ヤスミン・アフマド監督

──マレーシアという国をあまり知らない観客のためにもう少し詳しく教えてもらえますか?

マレーシアは他民族の国です。昔、マレーシア映画の父と言われたP・ラムリー(1929-1073)がマレー系ムスリムの男性とインド系の女性の恋愛を題材にした『カマルとリラ』という映画を作りました。60年代の白黒映画です。でもP・ラムリーが亡くなってから、人種が異なる登場人物のラブストーリーは『細い目』までなかったんです。中華系は中華系のために作られた映画を観て、インド系はインド系、マレー系はインド系の映画は観たりはするけど、やっぱりマレー系が主人公の映画を観る。そんなマレーシアの映画業界ができあがってきたんですね。

人種の分断はイギリスの植民地だった頃、当時の統治者が人種ごとに住む場所を分けていたので、植民地時代の産物といえるかもしれません。マレーシアはとてもユニークな国で、多様な人種が暮らしていて共通の言葉を話すけれど、同時に自分たちの言葉を保っている。順応するところは順応して、でも自分たちの伝統を守りたいと考えている人が多いんです。P・ラムリーの映画は、最後に女性がムスリムに改宗するんですが、少数派にはそうした自分たちのアイデンティティを捨てなくてはならないということが大きな問題としてあったんですね。

だから『細い目』はとても注目されました。そんな注目に対してヤスミンはとても慎重でした。この映画は、人種を描いているのではなくて若者の恋愛の物語なんだと伝えなくてはいけないって。社会がタブーを意図的に作っていると、いつの間にかそれが本当だと思ってしまうでしょ?ヤスミンはいつもこう言ってました。「人種差別的な人がこの映画を見て、最後に“この2人の恋がうまくいくといいな”と思ってくれたら、しめたものよ」って。好きな人を好きになる。それは自然なことだし、人種が違うからってその人を嫌いになれないでしょ?当時は物議をかもしたりもしたけど、今ではそれは特別なことではないという時代になりましたよね。

細い目サブ4
映画『細い目』

ヤスミン映画の特徴は長期のリハーサル、そして現実を取り入れること

──ヤスミンの映画にある寛容性は観客によく知られていますが、映画の作り方として大きな特徴があるとしたら、何がありますか?

まず第一に、これは皆さん、最初は信じてくれないのですが、実はヤスミンは長い期間リハーサルをするんです。どの映画でも、だいたい3ヵ月。何度もなんどもリハーサルを繰り返します。ところが、本番の時にすべてを捨ててしまうんです。相手役に内緒で「あなたはここでこうして」って突然、脚本を変えてしまったり。でも、長い期間のリハーサルで役が体の中に入っているから、その役の人物として反応ができるというわけです。

そしてもう一つは、現実をどんどん取り入れること。私たち4人の姉妹は、皆ヤスミンの映画に出演していますが、それぞれの性格がとてもよく使われています。私たちをよく観察していて、やりそうなこと言いそうなことをうまく映画に入れてしまいます。だからオーキッドのキャラクターは、ヤスミンが見つけた私自身でもあるんですね。

映画『細い目』
映画『細い目』

──マレーシアで『細い目』はどんな観客が観にきたのですか?

本当に多様な人が観にきました。人種も、世代も。時にこういうことが起きます。特別なことです。マレーはマレー、インドはインドがほとんどだったのに。時に特別なことが生まれる。『細い目』は特別な映画になったんです。街を歩いていると、皆が私を見て「オーキッドだわ」って。そして、この映画で人の考え方や社会も変わったと思います。頭にスカーフをした若いムスリムの女性が、私を見つけて、「オーキッド、これが私のジェイソンよ」と、彼女の中華系のボーイフレンドを紹介してくれたり。そういうことがよくあったんですよ。

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映画『細い目』

──タイトルの「細い目」も元は中華系の目をからかった言い方だったのに、この映画がきっかけで細い目はチャーミングと、価値観も変えたと聞きました。

ソウソウソウ、スゴイネ(日本語で)。ヤスミンの葬儀の時の話をしますね。ヤスミンはスバンジャヤのイスラム墓地に埋葬されたんですが、葬儀には家族や友人、仕事仲間だけでなく数百人ものファンも参列しました。マレー系だけでなく、中華系も、インド系もですよ!人種も年齢も関係なく。それはまるでヤスミンの映画のようでした。

──『細い目』はヤスミンにとって、長編映画としては2本目、最初の映画がテレビ用だったので劇場用映画としては1本目なのに、マレーシアアカデミー賞でたくさんの賞もとり、映画界でも高く評価されましたね。

信じられないことでした。もともとはヤスミンが自分のお母さんのためにつくった映画だったし、制作費も足りなくて、ポストプロダクションのお金もないとプロデューサーが頭を抱えていたのに。自慢げな言い方はしたくないですが、『細い目』はマレーシア映画を変えた作品だと言えると思います。

人の目を覚ました映画、新潮流も生み出して、インディペンデントの映画の扉を開きました。こんな小さな映画が、大作を押しのけてたくさんの賞をとったのですから。

細い目サブ5
映画『細い目』

──最後に。これまで何百回も聞かれたと思いますが、あのラストシーンの声。アマニさんは、どう受け止めていますか。

ヤスミンは、いつもこう答えていました。「あなたはどう思う?」って。ヤスミンは、それぞれの人の答えを聞くのが大好きでした。私はロマンティックなことが大好きですから、もちろん、答えは決まってますよね。

そうだ!ジェイソン役のン・チューセンは、撮影のとき、何歳だったと思う?オーキッドとあまり歳は変わらないように見えるでしょ?でも、ここだけの話、××歳だったのよ!お客さんには言わないでね、これもヤスミン・マジックだから(笑)!

(オフィシャル・インタビューより)



映画『細い目』
10月11日(金)アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督・脚本:ヤスミン・アフマド
撮影:キョン・ロウ
編集:アファンディ・ジャマルデン
出演:シャリファ・アマニ、ン・チューセン、ライナス・チャン、タン・メイ・リン、ハリス・イスカンダル、アイダ・ネリナ、アディバ・ヌール
配給:ムヴィオラ
協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター
原題:Sepet/英語題:Chinese Eyes/2004年/カラー/107分

公式サイト


▼映画『細い目』予告編

キーワード:

ヤスミン・アフマド


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